では、同居でお願いします
それは裕哉の手の中から資料の紙の束が落ちた音だった。

「な、な、な……」

よろりと立ち上がった裕哉が、私の肩を強くつかんだ。

思わぬ強い力に、体を引こうとしたけれど、がっちりと裕哉の手のひらがそれを許さなかった。

「裕ちゃ――」

「なんで? どうして? 僕の世話が大変だから!?」

「え……ううん、そうじゃない。違うよ」

「そっか、大変じゃなかったんだ。じゃあ、どうして?」

ホッとした表情を見せた裕哉に問われ、もやっとする。

世話が大変かもしれないとの自覚があるのならば、生活を改善していただきたいものだ。

確かに出て行く理由は「お世話が大変」だからではないが、だからと言って「お世話が大変じゃない」ことにはならない。


この人は、仕事をしている時は切れ者で、先々まで見通しを立てることも得意なのに……。


思わず笑いが込み上げた。

非の打ち所がないほどすごく素敵な社長なのに、こんなに私生活ダメ人間だなんて、誰も想像できないだろう。
そして、そのダメさ加減が今となっては可愛くて愛しい。
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