では、同居でお願いします
(裕ちゃんが幸せなら、それでいいよ。あれだけ優しい目で見送っていた相手だもんね)
会社のしがらみでお付き合いをしているのでなければ、何よりだろう。
私は笑顔で諸岡さんに頭を下げる。
「資料、お任せ下さい」
「はい、よろしくお願いしますね」
諸岡さんの眼鏡の奥の瞳がとても柔らかく笑んだ。
(わ、意外と優しい目をするんだ……)
怜悧でシャープな印象のある諸岡さんだが、笑うと柔らかな印象になることに、今、初めて気がついた。
裕哉の存在感が強すぎて、諸岡さんは目立たないけれど、彼ももっと女子社員にちやほやされてもいいと思った。
(もっと諸岡さんは評価が高くてもおかしくないのに)
そうこうしている内に、裕哉がいつもより少し遅れ気味で秘書室に顔を出した。
「悪い、仁。少し遅れた」
「まだ時間的には問題ありません。それより内海様のお嬢様から今夜の――」
言いかけた諸岡さんが、ハッとしたように私を見て口を閉ざし、すぐに話を変えた。
「早めに出ましょう。車を回してきます」
諸岡さんが踵を返して出て行くと、裕哉との間に沈黙が満ちる。
今朝は顔を合わせづらくて、朝食だけ用意して早めにマンションを出た。
(そっか、内海さんっていうんだね、あの人……)
別に私に聞かれても困ることじゃないのに、なぜ隠そうとするのだろう。
もう覚悟はできているのに。