では、同居でお願いします



その日の夜、何時に帰ってくるかわからない裕哉をソファーに座って本を読みながら待っていた。


本当は部屋に籠もってしまいたかった。

上機嫌で帰ってくる裕哉の姿なんて見たくもなかったし、彼女と会って帰ってきた裕哉を出迎えるのも辛かった。

「でも、あと四日しかないから……」

ここで一緒にすごせるのもあと四日。
もしも裕哉が結婚してしまったとしても、ここでの思い出は大事に取っておきたい。

本当に短い間だったけれど、だからこそ貴重な時間だった。


夜、十一時過ぎにマンションに帰ってきた裕哉が、リビングに入ってくるなりスッと封筒を差し出した。

「なに、これ?」

「引っ越しするなら、何かと物入りだし、これを使ってよ」

封筒の中身を見れば、一万円札が束で入っている。
少なくとも十枚二十枚ではない。

ビックリして慌てて封筒を裕哉に押し返す。

「ダメダメ! こんなのもらえないよ!」

「どうして? 引越祝いと思ってくれたらいいから」

「お祝いにしては金額がおかしいって! ビックリするわ」

「え~、わりと正当だと思うけどな」

(いえいえいえ! 全然正当な金額ではありませんからね?)
< 52 / 233 >

この作品をシェア

pagetop