では、同居でお願いします
コーヒーを自宅に配達頼んじゃう人だから金銭感覚おかしいかもしれないとは、ちょっと思っていたけど、やっぱり相当おかしかった!

この人、本当にこれから大丈夫なんだろうか……。

イヤな予感はするけれど、ここで折れてはいけない。気持ちを強く持ってこの生活から抜け出さなくてはいけない。

「あのね裕ちゃん。引越祝いなんて普通は一万円とかで充分なの」

「えっと、じゃあ今まで家事をしてくれた報酬として」

「簡単に名目を変えないでよ。それに家事は家賃だったからもらえないよ」

「えっと、じゃあ口止め料?」

「なんの!? 何かやましいことでもあった!?」

「ないけど」


(……もう意味がわかりませんが)


どうしてこんなにお金を渡そうとしてくるのか。こんな大金、もらえるわけもないのに。

(まさか手切れ金ってことは……ないね。手を切るもなにも私は単なる家政婦なんだから)

裕哉の真意はわからなかったけれど、お金を突き返されてシュンと項垂れている裕哉に私は眉を下げた。

「裕ちゃん、気持ちはありがたいよ。私のことを考えてくれてるのは嬉しい。でもやっぱりお金はもらえないの、わかってくれる?」

もうどっちが年上か全くわからない。大きな弟と話している気になってしまう。

慰めの言葉を告げたけれど、裕哉の表情は晴れなかった。

「海音ちゃんの力になれないなんて、僕は役立たずだ。どうしたら力になれる?」

「そんなこと――」

気にしないで、と続けようとしたけれど、「ああ!」と声を上げた裕哉に遮られた。
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