では、同居でお願いします
きっちりと結んでいた髪を下ろし、パーカーにジーンズ姿の私は、まるで学生そのもの。下手をすれば高校生に見えなくもない。

通りのガラスに映る自分の姿に苦笑する。

住宅街の道路だけれどそれなりに車は通るから、その度にライトに照らされてガラスに浮かび上がる自分と向き合うことになる。

「まだまだ社会人としては初心者マーク付きだもんね」

今日も諸岡さんの背中を追うように仕事をしていたけれど、彼の完璧さにはほど遠い。

コピーや資料の用意も、まるで手品のようにいつの間にか彼は用意しているし、全てが完璧で何一つミスもない。裕哉が次に指示するであろうことも、お見通しなのか先回りで準備をしている。

あまりにも先読みの能力がすごいので、「どうしてそんなに先回りできるんですか?」と尋ねたことがあったが、怜悧な目を細めて苦笑した後、彼は小さく首を振った。

「私などまだまだです。社長の先読みの深さと鋭さには完敗ですよ」

確かに裕哉は先を読むことに長けているなと思う。

相手が求めるもの、今欲しいもの、改善したいと思っていることが、なぜかちゃんとわかっているから、裕哉と直接会って話した相手は大概、裕哉の才能に惚れ込んでしまうようだ。

(でも私生活ダメ過ぎるけどね)

まあ、人間、あまり完璧過ぎても面白味が無くなってしまうだろうし、そこが裕哉の良いところなのかもしれない。
すごくポジティブに考えれば、の条件つきだが。


「彼女に呆れられなきゃいいけど……」


それだけが心配だった。
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