では、同居でお願いします
「イヤなことってなんで思い返してしまうんだろう」
彼女の声を思い返している、自分の行動に苦い笑いが浮かぶ。
記憶から消し去ればいいのに、わざわざ思い出しているなんて、バカだなと肩をすくめた瞬間、すれ違いざまに背後から声をかけられた。
「みお?」
――振り向いてはいけなかったのに。
私のことを『みお』と呼ぶのは、この世でたった一人しかいないのに、わかっていたのに、思わず振り返ってしまった。
「みお……なのか?」
一人の男が訝しそうにこちらを見据える。
「違います」
そう言いたいのに、唇は開くことができない。わななくだけで言葉を紡げない。
一歩、男が距離を縮める。
逃げだそうと思うのに、足はすくんで一歩たりとも進めない。
「ああ、やっぱみおだ。変わってないな、おまえ」
フッと笑った男の声に、私は完全に呪縛されてしまった。