では、同居でお願いします
けれど私はしばらく動くこともできず、コンビニへ行くこともなく逃げるように部屋へ戻り、ベッドにもぐり込んだ。
いつまで経っても眠ることなんてできなかった。
酷い顔を化粧で誤魔化して出社したけれど、頭が働いていない。
「……痛っ!」
資料の用紙で指先を切ってしまい、血が滲み出す。
意外とスッパリと切れていたようで、紅の雫がポトリと机にこぼれ落ちた。
「私……不注意だ」
資料を汚さないようすぐ脇に寄せ、急いで引き出しから絆創膏を取り出す。
指に貼り付けながら、自分に溜息が出てしまう。
こんなに動揺していることが情けない。
仕事に集中もできない半人前な自分が、皺だらけの下手くそに貼ってしまった絆創膏と重なって見えた。
「井波さん、指を怪我したのですか?」
社長室から戻ってきた諸岡さんが私の指先に気がついて眉間をグッと寄せる。
部下のこんな小さな変化にまで気がつくとは、さすが諸岡さんだと思うと同時に、優秀な彼の部下に相応しくない自分を恥じる。
わずかの不注意でさえひどい失態をしたように感じてしまった。