では、同居でお願いします
「すみません、不注意で。以後気をつけます」

「いえ、そういうことではなく……ええっと……なんて言うか……」

珍しく口ごもる諸岡さんを不思議に思い首を傾げると、彼は顔をさっと背けて照れたように告げた。

「井波さんの指、とても綺麗でいつもつい見てしまっていまして……」

「え?」

思いも寄らぬ言葉に、私は我知らず自分の手を隠すように両手を組み合わせた。

手入れなど何もしていない手、爪も薄いネイルをしているだけで、気合いを入れて整えているわけでもない。指輪一つしていない指は、綺麗だなんて思ったことも言われたこともない。

それを見られていたなんて、恥ずかしくて手を隠すようにしてしまった。

諸岡さんの視線を警戒して隠したわけではなかったが、諸岡さんは慌てて言い足した。

「あ、ち、違いますから! その、いつも見ているというのは変な意味ではなくて、私、人の手につい目が行きやすくて……」

焦っている諸岡さんが両手を胸の前でブンブンと振る。

その姿は、怜悧冷静の彼からは想像もできない慌てようで、なぜか可愛らしく思えてしまった私は、わざと尋ねた。

「……フェチ……ですか?」

「ち、違います!!」

言った途端、彼の声が裏返った。

「違います、違います! 女性だけでなく、ほら、その、社長の指とかも、惚れ惚れするほど美しく見えると言うか……ああ、こんなこと言えばさらに変態じみてしまう!」

取り乱してしまった諸岡さんは完全に自爆している。
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