では、同居でお願いします
堪えきれずに私はクスクスと笑ってしまった。

「諸岡さん、ごめんなさい。大丈夫です」

「え? 大丈夫?」

「はい、人は色々ですよね、理解していますから、私」

「いや、だから違うから! フェチとかそう言うんじゃないから!」

必死に食い下がってくる諸岡さんは、これまでに見たことのない姿で、なぜか今までよりぐっと身近に感じられた。

これ以上続けるのも申し訳なく、私は頭を下げる。

「って、冗談ですよ。怪我を気にかけてくださりありがとうございます」

顔を上げて笑みを浮かべた私をしばし呆然と見つめてから、諸岡さんは眼鏡を押し上げバツが悪そうに唇を噛んだ。

それから少しだけ迷うような眼差し見せてから、一転して落ち着いた声で言った。

「これは……秘密というか他言していただきたくないのですが……」

「はい?」

「実は、私は趣味で将棋をしているのです」

「将棋、ですか?」

「はい。ですから、相手の指を見てしまうというか、気になるといいますか……」

なるほど、と納得する。

将棋をやったことはないけれど、時々テレビで放映されているのを見ると、確かに棋士の手しか映らない。駒はもちろんだろうけれど、手が気になるのも納得だ。
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