では、同居でお願いします

「なるほどです。でも隠すこともないのでは?」

「そうですが……やはり若い人にとって将棋などは馴染みもなく、公言すると結構引かれたりするんですよ。特に女性には」

「そんなものですか? 個人の趣味なのですからいいと思いますが。と言うより、頭が良さそうでカッコイイと思いますよ」

「そう言ってくれるのは井波さんくらいですよ」

ニコッと笑った諸岡さんは、とても優しそうで一瞬だけ見惚れてしまった。

(似合ってる。賢そうで冷静で先読みもできる諸岡さんに、将棋は似合っているのに)

どうして公言しないのだろうか。

プラスのイメージはあれどマイナスのイメージにはならないと思うけれど、人それぞれに考え方があるのだろう。

そんな一幕があって、気持ちが切り替わった私は、それからは集中して仕事ができたが、集中を途切らせる内線が入る。


「井波さん、ちょっと来てくれる?」

裕哉からの呼び出しだ。

私はすぐに立ち上がると社長室に向かった。


「社長、井波です。失礼します」

ノックに続けて扉を開いた私は、窓の外を見ながら佇む裕哉の姿に視線を縫い止められる。

背中を見るだけでドキドキとしてしまうなんて、どれほど重症なのだろう。
この人を想う気持ちをいつか忘れることができるのだろうか。

ゆっくりと振り返る裕哉の動きがスローモーションのように目に映る。彼だけに光が降り注ぎ、周囲の全てが霞んでしまいそうだ。
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