では、同居でお願いします
「あのね、私が淹れる時は、豆をひいてドリップしていたから、そりゃインスタントよりはずっと美味しいけど、忙しくて、しかも無精の裕ちゃんがそんな手間かけて淹れられないでしょ」

「あ、久しぶりに『裕ちゃん』って呼ばれた。なんか嬉しい」

「聞いて!? 話を聞いて!」

「うん、やっぱり海音ちゃんいないとすっごく不便なんだよなぁ。コーヒーもカフェのより美味しいし、部屋も……」

「部屋も……何? 部屋もどうなっているの?」

問い詰める口調になった私から、裕哉はサッと視線を逸らせた。

「うん、ごめん」

(いやぁぁぁ、どうして謝るの! 掃除しまくって出たよね、私。もう台無し?)

斜め下を向いている裕哉の申し訳なさそうな表情が、叱られている犬のように思えてしまい、その内に笑いが込み上げてきた。

「もう、仕方ないね、裕ちゃん。今度、掃除しに行くから、散らかしクセを直していこうね」

「本当? うわ、嬉しい、ありがとう!」

手放しで喜ぶ年上の従兄弟に、完全に負けてしまった感がある。

――とてもこの人には敵わない。

一緒になって笑ってしまう。

弟がいたなら、こんな感じなのだろうな。
手がかかるけれど気になって仕方なくて、でも手伝ってあげたくて放っておけない。
イケメン若社長で神様で、そしてダメダメで弟気質な裕哉が愛しくて堪らなかった。

笑みを浮かべる私に、裕哉は少しだけ遠慮した口調で言った。

「とりあえず、次の休みには来てくれるかな?」

「お休みの日?」

(いいのかな? 私が裕ちゃんの時間を独占しても)

そんな私の心配をよそに裕哉は迷いなく頷く。

「うん、来てくれる?」

「私は、構わないけど……裕ちゃんはいいの?」

もちろんだよ、と裕哉は嬉しそうに笑った。
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