では、同居でお願いします
週末に裕哉の部屋に行けることになった私は、抑えようとしてもつい頬が緩んでしまう。
自分のデスクで仕事をしていても落ち着かなかった。
「井波さん、何かいいことあったの?」
同じ秘書室にいる先輩に尋ねられて、そんなに自分がにやけていたのかと恥ずかしくなってしまった。
(こんなに浮かれてしまう自分が情けないよ……)
裕哉の言動一つで心が浮き沈みしてしまう。
こんなに揺れる気持ちを、どうしたら消せるのか全くわからなかった。
業務を終えて会社を出たのは八時半過ぎだった。
裕哉と諸岡さんは、取引先の接待で食事に出かけるからと慌ただしく会社をでてしまったので、後片付けを済ませていたのだが、意外と時間がかかってしまった。
「もう今日は何か買って帰ろう」
最寄り駅で降りてコンビニに向かった私は、昨晩のことを思い出して身構えた。
(そうだった。昨日、あの人にここで会ったんだ)
この近くに住んでいるのだろうか。たまたまこの近所に来ただけだろうか。
どちらにしろ、二度と会いたくない相手だ。
周囲を警戒しながらコンビニへと足を運び、店に入った途端に安堵の吐息をこぼした。
「良かった、いない」
考えてみれば、あの人はとてもモテていたし、数ヶ月しか関わっていない女、それも高校生の子どもだった女を、いつまでも追いかけ回すこともないだろう。