では、同居でお願いします
「いえ、お、女の子が泣くとか……俺、ど、どうしていいのか。ごめんなさい、俺、ほんと、気がきかなくて」

しどろもどろの紀ノ川さんの対応が心に沁みる。

いい人なのがありありと伝わってきて、安堵感が体に広がりホッと息がこぼれた。
ようやく呼吸ができたような気がする。

私は温かいミルクティーのペットボトルを受け取った。

「じゃあ、遠慮無くいただきますね。紀ノ川さん、ありがとうございます」

泣いたことが恥ずかしくて、照れ隠しに笑って見せると、紀ノ川さんの顔が見る間に真っ赤に染まる。

「お、お、お、俺は……じゃ、こ、これで!」

そそくさと逃げるようにマンションに入っていってしまった。

手に残されたミルクティーが、凍り付いていた心を溶かしてくれた。

「本当にありがとう、紀ノ川さん……」

呟いてから、私も一人の部屋へと帰った。


ベッドに腰を下ろして考える。


(このままじゃダメだ……。私、逃げてばかりじゃダメだ)


あの男――藤川圭吾(ふじかわ けいご)に、つきまとわれてばかりはいられない。

「過去に振り回されたくない」

高校生の頃の私は、自分では何もでず、誰かに頼ってばかりの子どもだった。

そのツケが今の状態だ。
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