では、同居でお願いします
藤川になんて、あんな男に自分を託そうしたからだ。
無知なくせになんでも見通せているなんて思っていたあの頃の私がバカだった。退屈な日常を、退屈な町のせいにしていた自分が愚かだった。
あの頃の藤川の声が耳の中に甦る。
――『町から出たい? 東京? いいよ、俺が連れてってやるよ』
高校二年の時だった。
夏休みにバイトしていた喫茶店の客として来ていた藤川はとても垢抜けた雰囲気の大人の男で、一目で心惹かれた。
『海音ちゃんって言うんだ。名前も可愛いね。俺と遊びに行かない?』
きっと彼なら……東京から期限付きで転勤してきている彼なら、この田舎町から私を連れ出してくれるんだ――なんて、子どもの私には思えた。
退屈な日常も退屈な町も退屈な学校も、すべてこの人が変えてくれるなんて、どうして考えてしまったのだろう。
ただ遊ばれているだけだなんて知りもしないで、私はいつだって期待していた。
「いつ東京に帰るの? その時は連れて行ってくれるよね?」
何人も遊びで付き合っている相手がいたことも、私を連れて行く気もないことも、少し考えたのならばすぐにわかったはずなのに、不都合に目を背けていた。