では、同居でお願いします
諸岡さんの気遣いには脱帽してしまう。
翌朝、出社した私を見て、すぐに諸岡さんは問いかけてきた。
「井波さん、少し顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
彼こそ秘書の鑑だと思う。
周囲への気遣い、仕事の手早さ、先読みの能力、コミュニケーション力、どれをとっても一流で、営業職だとしてもトップランカーになれる実力はあると思うけれど、やはり秘書としては最も有能だと思えた。
昨晩は全く眠れなかった。
あの男、藤川がマンションを知っていたことの恐怖や、会社を調べられて乗り込まれたらどうしようと、そんな不安ばかりで眠ることなどできなかった。
前を向いて歩くために、逃げずに立ち向かうと決心したのに、やはり先立つものは不安ばかりだった。
「すみません、少し眠れなかったので……顔、酷いですか?」
「はは、前にも言いましたが、井波さんは綺麗ですよ。でも疲れていない方が綺麗ですけどね」
この滑らかなリップサービス。お見事です。
これをぜひ見習っていただきたい人が出社してきた。
「仁、井波さん、おはよう」
「あ、社長、おはようございます」
秘書室に顔を出した裕哉にそこにいた社員が頭を下げる。