では、同居でお願いします
その日、時間を見計らい、社長室のドアをノックしてから扉を開く。

「社長、井波ですが、少しお時間よろしいでしょうか」

「うん、どうぞ」

社長としてではなく、「従兄弟の裕ちゃん」として返事をしてくれた。


会社では従兄弟であることは伏せているので、「社長」「井波さん」と呼び合い、ビジネスライクにお互い接している。

それでも時折、「海音ちゃん、ムリしないように」だの「ある程度で帰ってくれていいよ、仁がいるから」と常々従兄弟として気遣いを見せてくれていた。

記憶の中の裕哉も優しいお兄ちゃんだったけれど、今はもう神様にしか見えない。

社長としての裕哉は有能だし、それでいて周囲への気遣いや言葉遣いは丁寧だ。
こんな人の元ならずっとついて行きたい。それは多分、多くの社員がそう思っているだろう。

そして私にとっては、凛々しい社長の姿と優しい従兄弟の姿のギャップに、時折ドキンとしてしまうのは、致し方ないことだった。


「どうしたの、何か相談?」

デスクの前に立った私を見上げた裕哉が首を傾げる。

こんな相談をするなんて自分でも情けないとは思うけれど、背に腹は代えられないと思い切って口を開いた。


「実は……少しお金を貸して欲しくて……」

「え?」

きょとん、と目を開いた裕哉の表情に自分の不甲斐なさを覚えて唇を噛んだ。
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