年下くんの電撃求愛
⚫︎
⚪︎


人間は、目的のために動く生き物だ。

お金をかせぐために仕事をするし、講義中眠らないために超刺激ガムを噛むし、翌朝爆発させないために、丁寧に髪をブローをする。

そう。わたしたちは、なにか目的があって、行動を起こしている。

そのことに基づいて考えよう。

女に不足しないであろうフレッシュイケメンが、6つも上の三十路コケシ女にせまる目的とは、いったい……


「わからない……」


翌朝、午前7時前。

絶望的なかすれ声でそうつぶやきながら、わたしーー本河透子は、自宅の洗面台に手をつき、鏡と向き合っていた。

鏡のなかのわたしは、いつもに輪をかけてブサイクな顔をしていた。

目の下に濃いクマができているうえ、全体がパンパンにむくんでしまっている。

仕方ない、とは思う。昨夜、一睡もできなかったのだから。

けれど仕方ないで済まされないのは、一睡もできなかった、理由の方だ。

その、理由とは。


「あああああ……」


映像をリアルに思い出してしまい、わたしは奇声をあげ、しゃがみこむと、洗面台にもたれかかった。

ごつん、ごつん。本来歯磨き・手洗い・洗顔をすべき場所に頭を打ちつけ、必死に記憶を消去しようとこころみる。


……昨日。

わたしは、職場の後輩である鷹野くんと、キスをしてしまった。

定時すぎ、カウンセリングルームで指導しようとしていたら、いきなりせまられ、濃厚なキスをくらわされ、そのうえ、告白までされてしまったのだ。


……大事件だ。

大事件というか、珍事件だ。あの鷹野くんが、なぜわたしなんかに?

< 14 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop