年下くんの電撃求愛
刺激より、安寧。今のわたしに必要なのは、まさに後者なのだ。
燃えるような恋じゃなく、ぬるま湯のような何か、でいい。絶対大丈夫だと確信できないと、踏み込めない。
マイナス思考だろうか。そう思ってしまうわたしは、臆病なのだろうか。
でももう、傷つきたくないのだ。ますます自分を嫌いになりたくない。もうこの年になると、平凡な幸せが欲しいんです。平々凡々がいいんです。いや、ほんと、切実に。
逃げなければ。距離を、とらなければ。
うっかり、鷹野くんというブラックホールに、吸い込まれてしまわないうちに。
「おはようございます」
……と、一生懸命悩んで、考えたところで、わたしたちは同じ職場なわけでして。
支店のビルに到着し、息をつきながら傘をたたみ、自動ドアをくぐったところで……エレベーター待ちをしていた鷹野くんと、ばったり、遭遇してしまった。
完璧な笑顔をわたしに向ける鷹野くんは、今日もすがすがしいほどの王子様っぷりだ。
キューティクルに守られたサラサラの髪には、わたしの頭頂部のように重力に逆らうアホ毛は見あたらない。うらやましいかぎりである。
「……おは、よう……」
濡れて束になった前髪を、そそくさと直しながら、わたしは鷹野くんのとなりに並ぶ。
朝っぱらから、なんて心臓に悪いんだろう。喉元まで込みあげてくる気まずさを、無理やりごくりと飲み下す。
そして、あごを引いたまま視線だけを横に流し、鷹野くんの様子をうかがう……と。
「……っ、」
ものすごく満足そうにほほえむ鷹野くんと目が合ってしまい、わたしはびくっと、肩の位置を高くした。