年下くんの電撃求愛

……べつに、駆り出してくれるのはかまわないんですけどね。

怒鳴るように注文を終えたあと、かたいソファに再着席し、聞こえてくる演歌に手拍子を打ちはじめながら、わたしは目を細めて、現実逃避をはかった。

いいんですけどね、全然。仕事にはつき合いというものがありますし、全額おごりですし。

でも、当日誘って当然来られると思われているあたり、女としてわりと辛いものがありますよね。

あと、貴重な業務後のくつろぎ時間を奪われておいて、謎の歌やダンスを見せられて、感想を聞かれて述べさせられ、ときに知らない歌謡曲のデュエットをしろ、なんて無茶をおっしゃるんですから、時給800円くらい出してくれてもいいと思うんですけどわたしなにか間違ってますかね……!!


「おー!本河ちゃん、グラス空いてるじゃんかー。どうどう」


いや、830円くらいは……と、10円刻みで時給について考えていると、陽気な調子で、森岡さんが、わたしに声をかけてきた。

支店長より、さらに上の階級。各支店を取り仕切るブロック長である森岡さんは、9対1の分け目と、いつもつるんと光っているおでこが特徴的なおじさまだ。

その森岡さんから、半分空いていたわたしのグラスに、ことことと、新たなビールが注がれる。


「わっ、ありがとうございます!!」

「本河ちゃーん、新人指導頑張ってるらしいね。大貫くんからいろいろ聞いてるよー」

「え!いや!!ほんとまだまだ、力及ばずでして……」


大貫、という名前に、ちらりと部屋の奥にあるステージの方を見遣る。

ステージに仁王立ちし、ひたいに血管を浮かび上がらせて熱唱する支店長の姿に、ひくっと口端が引きつった。

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