年下くんの電撃求愛
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ーー酔って記憶ないけど、気がついたら勝手に家に帰ってたわ。

そんな話を友人数名から聞いたことがあったから、わたしはてっきり、自分も同様の経験をしたものだと思っていた。

記憶はないながら、ちゃんと自分の足で帰ってきたのだと。人の帰巣本能もあなどれないなぁ、すごいな人間、と、勝手に感心していた。

けれどちがった。

今から数ヶ月さかのぼった、あの日。

わたしは、初対面だった鷹野くんに、マンションの自室まで送り届けてもらっていたらしい。

なぜ入社前の鷹野くんが交流会に参加したのかというと、支店に健康診断の書類を提出しに来ていたところを、『お前も来るか』と、支店長が半ば強制的に、連行したらしい。

2人が途中来店したときには、もうわたしはベロンベロンに酔って、つぶれて、面倒くさいことになっていたらしい。

そしてお開きになったとき、支店長は、鷹野くんに命じたらしい。

責任持って、わたしを送ってけと。襲われるなよ、と一言、付け加えて。

以上が、支店長が語った事実だった。


……驚愕だ。驚愕の事実だ。


「最悪だ……」


あまりに茫然自失し、交流会を一次会で抜け、わたしは自宅に戻ってきていた。

ドアを入ってすぐの玄関で崩れ込み、過去に自分がしでかしていた大事件の内容に、今現在、うちふるえている。

知らなかった。入社式より前に、鷹野くんに会っていたなんて。

しかもそんな、大迷惑をかけていたなんて。

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