年下くんの電撃求愛
「ほんとに一発、殴ってやればよかった……」
「……っ、」
その言葉に、また一段階、きゅうっと胸がしぼられるのを感じる。
クズとか、殴るとか、全身消毒とか。鷹野くんが口にするのは、さっきからいろんな意味で教育上よろしくない言葉ばかりなのに、どうしてだろう。全然、怖いと思わなかった。
それどころか、逆で。初めて年下らしさを見せられた気がして、なんだかそれが、とても可愛くて。わたしはぐっと、くちびるを内側に巻き込んでいた。
どうしよう。
わたしのせいで、悔しいって思わせてしまっているのに。怒るなんて、しんどいことをさせてしまっているのに。どうしよう。
……嬉しい。
「ありがとう……」
気がつくと、またその言葉が、口を滑り出てしまっていた。
そんなわたしに、鷹野くんは苦笑する。
「……もう、ありがとうは禁止です」
「でも、ほんとにわたし……」
「これ以上言うと口、塞ぎますよ」
冗談混じりの、響きの良い声で、鷹野くんが言った。
鷹野くんの親指の腹が、わたしのくちびるに触れる。
たった一箇所触れられた、それだけで、甘い痺れが頭に、体の最下部の、つま先にまで伝わる。
じんじんして、疼く。わたし自身が、甘いものになってしまったかのような錯覚に、おちいってしまう。
「……うん」
こくりと、うなずいた。
塞ぐの意味はちゃんと、理解していた。
近距離にある鷹野くんの目が、驚きに見開かれる。
キスは、降ってこなかった。
数秒間を置いたあと、鷹野くんは口元に乾いた笑いを浮かべ、「……ばかじゃないですか」とつぶやいた。