年下くんの電撃求愛
街中で、鷹野くんに抱きかかえてもらったとき……わたしはほんの少しだけ、思い出していたのだ。
鷹野くんの腕中で、混乱して緊張して、いっぱいいっぱいのはずだったのに、同時になぜか、すごく懐かしい気持ちが込み上げてきた。
わたし、この腕を知ってる。そう思った。
触れたことがある。こうやって、抱えられて、このなかで、揺られたことがある。
たったそれだけだけど、感覚的に、思い出したんだ。
わたしの言葉に、鷹野くんは動きを止め、目を見張った。
揺れる瞳が、わたしをうつしている。
その瞳を見つめながら、わたしは続ける。
「あ……あのね。支店長から、聞いたの。その……3月の交流会で、鷹野くんが、酔っ払ったわたしを、家まで送ってくれたって」
「………支店長が……」
「そ、それでね!?そのときのこと、思い出そうと頑張ってみたんだけど……でも、どうしても、何があったとか、思い出せなくて。だから、その……」
一度言葉を切って、ごくりと息をのむ。
鷹野くんの袖を握る手に、さらにきゅっと力を込めて、わたしは言った。
「お、教えて、ほしいの。その夜、わたし……鷹野くんに、何か、した?」
やっと、聞けた。昨晩からずっと、聞かなければと思っていたこと。
でも今、わたしを動かしたのは、聞かなきゃ、なんていう義務感じゃなかった。
わたしがただ、聞きたかった。
知りたかった。鷹野くんとの間にあったことなら、全部知っておきたかった。
視線の先にいる鷹野くんは、しばらく無表情だった。
沈黙が気まずくて、わたしはおずおずとまた、口を開く。