年下くんの電撃求愛
志水さんは、わざと2人きりになるような環境をつくっては、執拗に俺に触ってくるようになった。
飲みにも、頻回に誘われた。年下が好きなんだよね、と何度も言われ、しまいには抱きつかれそうになり、これ以上はやばいと思った俺は、志水さんにはっきり告げた。
『僕は、実習に来てるんで。すみません』
その翌日から、志水さんはうって変わって、俺に冷たく当たるようになった。
志水さんだけじゃない。がらりと態度を変えたのは、スタッフ全員だった。
後に聞けば、志水さんが、俺に関してあることないこと言いふらしたせいだったらしいが……とにかく俺は、店内で存在を無視されるようになった。
実習らしいことは、なにもさせてもらえず、朝から晩まで、店の隅に立たされていた。
昼食はもちろん、水を飲む権利も与えられなかった。
水分を取らずに半日以上、ずっと同じ姿勢で身動きが取れないというのは、かなりきついものがあった。
どうして、せっかく様々なことを吸収できる場面で、時間を無駄に過ごしているんだろう。
内心呆れと苛立ちで溢れていたけれど、実習先で評価がもらえなければ、学校を卒業できない。
実習期間中だけなのだからと、耐えるしかなかった。
そんなある日、あの出来事は起きた。
店長が休みであるその日、朝から店はすいていた。
午後はわりと多かったのだが、午前中の予約は1件のみで、スタイリストもアシスタントもみな、暇を持て余している様子だった。
9時半ごろに、唯一の予約客が来店した。
その人は初めて来店する新規客で、髪の長い、決して派手ではない、さっぱりした印象の女性だった。