年下くんの電撃求愛
『カットでよろしかったですか?』
『あ、はい!全体的にすいて、毛先をそろえるくらいでお願いしたいんですけど』
志水さんが対応し、まず、その女性を鏡の前に座らせ、注文の確認に入っていた。
他にお客様がいないからか、その声はよく通って聞こえた。俺はいつも通り美容室の隅に立ち、2人のやりとりを見ていた。
そのときだ。
『鷹野くん』
俺に向かって、志水さんの声が飛んできた。
ずっと無視し続けていたのに、突然の名指し。強い違和感を覚えつつも、俺は『はい』と返事をした。
そして志水さんは、俺に命令を下した。
『シャンプー入って』
……なにを言っているのかと、思った。
だって実習生は、お客様に直接触れてはいけないことになっている。誰もが知っている、当然の決まりだ。
お客様に対してできるのは、せいぜい、飲み物を出させてもらうことくらいなはずなのに。
動かない俺の元に、志水さんは悪意をもった笑みを浮かべながら近づき、そして、俺だけに聞こえるように耳打ちした。
『入らないと落とすよ?できるでしょ?美容師のオトーサンにたくさん教えてもらってんだから』
『……っ、』
……完全に、おふざけがすぎる。
俺を焦らせたいがための嫌がらせだ。この人は、俺が実習生であるとはお客様に明かさずに、私情だけで決まりを破るつもりなのだ。
シャンプーボール周辺には、近づかせてもらったことがない。操作方法もはっきりわからない。