ブラックバカラをあなたへ
自然と重い空気になってしまって、私は無言のまま身動きが取れなかった。




でも、やっと出会えたのだから何か聞かないと…




そう思い、私は一番気になっている事を聞くことにした。




「鬼龍に復讐するつもりなの…?」




恐る恐る口を開く。




それを聞いた2人の顔は、寂しさの中にも決意じみた力強さが宿っていて、2人は本気なんだと思ってしまった。




「復讐したとして、2人はそれで報われるの?」




「さあ…どうなんだろうな…」




翔平の曖昧な答えに拍子抜けする。




「復讐かどうかも分かんない。あいつらの手向け程度なのかもしれない…ただ、奴らを殺したくて仕方ないんだ…あいつらを許せないんだよ」




その言葉に、私は驚愕した。




慈悲深かった翔平が、殺したいなんてことを言うのかと。




でも、それが普通の感情なのかもしれない。




翔平でも許せないほどの事をあいつらはした。




「僕たちは、あの日から、死んだも同然なんだ。息をするのも、生きてるって実感するのも辛いんだ。だから、今度こそちゃんと死ぬって決めたんだ」




そう言いて、努めて明るく笑う育に胸が締め付けられる。




育の気持ちが分かるから、余計に痛くて苦しい。




「でもね、僕たちが先に死んじゃったら、一体誰が葉音たちのことを守ってくれるんだろうって思ったんだ。だから、先に危険なあいつらを殺してしまえばいいって思ったの。その後で、みんな一緒に死んで、あの世でまた一緒に過ごせればいいって。ね、素敵じゃない?」




「……」




……怖い。




育の満面んな笑みを見て、そう思わずにはいられなかった。




壊れてる…




目の前にいるのは、今までの2人とは全くの別人だ。




聖人のような翔平も、正義を好きでいた育も、ここにはもういない。




どうしてここまで壊れてしまったの…




お願いだから正気に戻って…




心の中の悲痛な叫びが声になることはなく、代わりにまた涙を流していた。




2人がどうしたのと言って、私の両隣に座り直す。




翔平が私の頭を撫で、育は私の背中をさすってくれる。




私は顔を覆いながら、静かに涙を流し続けたまま。




2人の優しさが、手の温もりが、悔しさと共に私の心に染み渡る。




私が2人の心を壊してしまった…




私じゃもう、どうすることもできないの…?




2人が人殺しになるのを見ている事しかできないの…?




2人の血に染まった姿を想像して、身震いをする。




だめ…そんなの絶対だめ…




私が止めなきゃ。




2人に人殺しなんて絶対させない。
< 103 / 106 >

この作品をシェア

pagetop