ブラックバカラをあなたへ
何を作るかは、スーパーへ向かう道中で考えていた。




やっぱ夏だし、冷やし中華だよねー。




スーパーに着き、目当ての食材を籠に詰めていく。




ついでに、潤ちゃんに貰ったものと同じ紅茶の茶葉も買っておく。




さて、こんなものかなと、籠に目をやるが、肝心な卵を入れ忘れていることに気づいた。




卵がおいてある乳製品のコーナーまで行って、卵を籠に入れる。




「あれ?葉音?」




レジに向かおうと思った矢先、後ろから聞きなれた声がした。




振り返ると、案の定、金髪にピアスを何個も付けたいかにもな野郎がいた。




「ちょ、なんでそんな嫌そうな顔するんだ?」




「別にいつも通りですけど」




私が冷たく言い放つと、チャラ男、もとい結我は眉を下げて苦笑いをしている。




なんで、昨日の今日でこいつに会うのよ…




はぁ、と心の中で溜息をつく。




なぜ、こうも結我に対して素っ気ない態度を取っているかというと、昨日2人に皇夜のことを話したのが原因だ。




2人も彼らが私たちの学校に転入してきたことは知っていたらしい。




2人は彼らの生活ぶりを矢継ぎ早に質問してきた。




それほど、彼らの事も大事に思っているのだろう。




けれど、私たちはそんな彼らを皇夜から奪ったため、皇夜の連中には深く関わってこなかった。




ナイトプールには行ったけれど、それもほんのひと時だ。




私の返答に、2人は少し寂しそうな顔をした。




ごめんねと心の中で呟くと、育が急に立ち上がって、私は思わず驚いた。




『どうしたの?』




『関わっちゃえばいいじゃん!』




テーブルに手をつき、前のめりになって、私の顔に自分の顔を近づける。




顔が近いことよりも、育の突拍子もない発言に私は固まった。




『え、えーっと…話聞いてた?私たちはあいつらに関わっちゃいけないんだって。あの日のようなことがまた起きたらどうするの…』




なんとか育を説き吹かせようと試みる。




翔平にも目で助言を求めるが、何かを考えているようでこっちを見もしない。




どうすればと困っていると、育の顔がすっと離れる。




どうやら、翔平が離してくれたようだ。




これで助かった…そう思ったのも束の間。




『育の言う通り、仲良くなってもいいと思うよ』




その言葉に、私は『はあ?』としか言いようがなかった。




変わってしまったことは分かったけれど、馬鹿にまでなってしまったのかと、頭を抱える。




翔平の慈愛に満ちた微笑みを見るに、冗談を言っている風には見えない。




何を考えているのか分からず、自然と私の口は動いていた。




『なんで、そんなこと言うの?』




あいつらのことが大事だと思うなら、私たちを近づけさせるはずがない。




そう思っていたのに、それとは真逆の事を言われるなんて、思いもしなかった。




『だって、俺たちの大切な人を傷つけるなんてこと、俺たちが許すはずないだろう?危険な目には絶対合わせないし、もし万が一あったとしても、その時は必ず俺たちが助ける』




翔平の自身に満ちた声や表情に気圧される。




絶対なんてあるはずがないと分かっているけれど、頷きそうになるほどの重みがあった。




『それに…あいつらにも心の支えが必要なんだ。あいつらは今まで俺たちを拠り所にしていた。けれど、もう五代目はいない。きっと、あいつらは今、不安も悲しみも誰にも言い出せないまま、孤独に生きてると思うんだ。




だから、葉音、こんなこと頼める筋合いはないと思うけど、それでもお願いだ。あいつらの心に寄り添ってやってほしい』




翔平が頭を下げる。




それに続いて育も。




そんな2人を見て、つい了承してしまった。




大体2人の頼みを私が断れるはずがないんだよ…




戸惑いは大きかったけれど、彼らを心配する2人の気持ちを思うと自然と頭を縦に振っていた。




でも、実際、こうして会ってみると、仲良くってどうしたらなれるのか分からなくなる。




思考がぐちゃぐちゃしていて、結我には冷たい態度を取ってしまった。




少しの間沈黙が流れた。




先に口を開いたのは結我だった。




「今度、みんなでたこ焼きパーティーするんだけど、葉音たちもおいでよ」




みんなって、多分、いや確実に碧斗たちのことだろうけど…




結我ってやっぱり馬鹿なのかな?




また、碧斗と咲満に何も言わないで私たちを誘うなんて。




この前、「次、同じようなことしたら、ただじゃおかねえ」的なこと言われてなかった?大丈夫?




と心の中で呟く。




けれど、これはチャンスかもしれない。




あの2人のために仲良くなってやろうじゃないの!
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