ブラックバカラをあなたへ
屋上に来て、しんみりとした空気が漂う。




私は気にせず、本を読み続けていた。




と言っても、みんなの話は聞いているのだけれど。





シーンとしていたところに、聞きなれない声が聞こえてきた。




ドアの方を向いてみると、どこか貫禄のある男が5人、立っていた。




でも、別に興味のない私は本を読み始める。




すごい、上から目線な彼らに春実が食いつく。




はぁ…ここで殺気なんかだしてほしくないわ。




今、丁度、感動するシーンを読んでいるというのに。




これじゃ、最悪な気分でしか読めないわ。




呆れる。




もう、屋上から出て行きたい。




そう思っていた私の脳が、大きな、少し高い声に反応する。




似ている…




でも、まさか…




私は、ゆっくりと声の発信主の方を向く。




そこには……優の姿があった。




でも、それは一瞬で消えてしまった。




優の姿に見えた彼は、右目が黄色で、左目が空色で。




髪は銀髪で。




全く優とは違うのに。





名前だって、彼は自分で滾って言ってた。




それなのに、一瞬でも優に見えてしまったのは、何故なのか…




初めて彼に会ったこの場所に来たせいで、こんな場所でみんなが皇夜の話なんかしたせいで、私の頭はおかしくなったんじゃないの?




だって、だって、優がいるはずなんてない。




優が私に会いに来ることなんて、決してない…




分かっているのに。




私の脳は、優の姿を思い出させて、私の目は、優の姿を映したがる。




やめてよ…っ!




彼の笑った顔が、余計に私の脳を刺激する。




優も、あんな風に、無邪気に笑ってた…




無意識にそう思ってしまって。




この笑顔を奪ってしまったのは私って思うと、とても恐かった。




彼から目を離したいのに、離せない。




体中が彼を求めている。




なのに、私が触れたら一瞬で壊れてしまいそうで。




怖くて、恐くて…




震えが止まらない。




私は、彼から逃げるように意識を手放した。
< 12 / 106 >

この作品をシェア

pagetop