ブラックバカラをあなたへ
『なぁなぁ!それ、何読んでるんだ?』




『…なんでもいいでしょ』




私は本から目を離さずに、素っ気ない返事を返す。




この人、私とは相性が良くないわ。




早く、どこかに行ってくれないかしら。




そんな私とは裏腹に、彼はずっと私に話しかけてくる。




私は、それに答えたり答えなかったり。




どっちにしろ、きっと彼にとってつまらない時間だと思っていたのに。




彼は、いつまで経っても私の元から離れなかった。




それが不思議で、こんなつまらない時間を彼はどんな顔で過ごしているのだろうと気になって、少し顔をあげてみる。




『…っ』




眩しかった。




とても。




眩しくて、綺麗で…




私は目が離せなかった。




丁度、今読んでいたこの本の主人公のように。




何も知らない、純粋な目。




天真爛漫な笑顔。




吸い込まれてしまいそう…




『やぁっと、俺の顔見てくれた!俺、椎名優!君の名前も教えてよ!』




そう言って、ニコニコ笑う彼に、不覚にも可愛いと思ってしまった…




顔を本に戻す。




別に、照れてなんかないわ。




誰にも言わないのだけれど、そう思わないと、不服で。




『あー!また、本読み出しちゃった…』




寂しそうな声に、なけなしの良心が痛む。




『…田邊|《たなべ》…仲葉…これでいいでしょ。早く、別の人の所にでも行きなさいよ』




『仲葉って言うんだ!やった!やっと、名前が知れた!ありがとな!』




なんで、私の名前が知れただけで、そんな嬉しそうなのよ。




変な子。




『俺、仲葉のこと気に入った!だから、もっと話ししたいなー!』




本当に変な子だわ。




なんで、冷たい私のことを気に入ったなんて思うの?




理解不能だわ。




それに…




彼といると、なんか調子が狂う。




ちょっとだけ、話してもいいかな、なんて思っちゃう。




『不思議な子ね』




『仲葉の笑った顔、可愛いな!』




『……バカじゃないの』




そうは言ったものの、少しだけ嬉しかった。




少しだけ…ね。




仲葉side end
< 13 / 106 >

この作品をシェア

pagetop