ブラックバカラをあなたへ
あれから数十分後、仲葉が目を覚ました。




「仲葉!具合、どう?」




仲葉が上半身だけを起こすと、仲葉の長い髪が顔を隠した。




「…うん…大丈夫」




でも、仲葉の手の甲に雫が落ちる。




「仲葉さん、泣いているのですか…?」




優奈がそう聞くと、仲葉はふるふると頭を振る。




「…でも」




「泣いて、いないわ…」




そう言って、目を擦った。




本当に、仲葉は強がりなんだから。




仲葉は、いつも無表情で、自分のことなんか全くと言っていいほど話さない。




そして、一人で抱え込む。




「私たちには、弱さ見せてよ…」




「え…」




あ、やば…声に出てた?




言うつもりはなかったんだけど…




私は、エヘヘって、頬をかく。




でも、仲葉の反応が全くない。




もしかして、引かれちゃったかな…




そんなこと思っていたら、仲葉が小さく呟く。




「…昔の、彼との、夢を見たの。初めて会った日の…」




そう、こぼしたら、次から次へと溢れ出す。




仲葉は、大粒の涙を流しながら、話を続ける。




「彼の笑顔がっ…ずっとね、夢に出てくるの…眩しくて、綺麗で…ずっと、見ていたいって思うの…でもっ、でもっ…」




そう言って、仲葉は手で顔を覆う。




嗚咽を漏らさないよう、でも、時々出るその声が、とても苦しそうで。




私まで、泣きそうだ。




「うっ…でも、ね…っ、その笑顔を奪ったのが、私って思い知らされるの…それがっ…あっ…ふっ…うぅ…っ」




「仲葉っ…」




私には、かけれる言葉がなかった。




ただただ、仲葉を抱きしめることしかできなかった。




全部、忘れていいんだよ、なんて、無責任なこと言えなかった。




苦しまなくていいんだよ、って言えるはずがなかった。




だって、直接殺したのは私達じゃなくても、根を辿ると私達の弱さが原因で。




それを忘れるなんて、どれだけ都合のいい奴なんだろう。




そして、苦しみから逃げるってことは、彼からも逃げることになる。




彼が好きだったから、余計苦しむ。




余計、悲しくて、悔しくて、辛い。




それから逃げるなんて、彼を好きだったことを否定するのと同じじゃん。




「ねぇ、葉音…私、もう、無理だわ…もう、彼のいない世界なんて、私生きていけないの…っ!」




仲葉って、こんな小さかったっけ。




こんな、細かったんだね。




仲葉の弱さを初めて感じたような気がする。




「私、彼に会いたい…彼のところへ、逝きたいの…」




その言葉に、胸がぎゅうと掴まれる。




私も、何度も思ったことだから。




こうやって、仲葉を抱きしめていると、痛いほどに仲葉の心が分かってしまう。




「うん…そうだね。彼に、彼らに、もう一度私も会いたいよ」




仲葉の心の傷が、仲葉自身を蝕む。




仲葉の心は、もう悲鳴をあげつづけてる。




でもね、仲葉。




それは、みんなも一緒。




「それでも、まだ私達は逝けないよ。まだ、私達にはやることがあるでしょ?」




そう言って、私はみんなの顔を見回す。




みんなも少し、泣きそうになっていて。




やっぱり、みんなも同じように傷ついてるんだって、もう一度思った。




「やる、こと…?」




仲葉が首をかしげる。




「うん。私達がやるべきこと。それは、行方不明になった、あの2人を見つけること」




私の言葉にみんなの顔がハッとする。




あの2人はまだ、生きている。




あの5人に皇夜を託して、何処かで生きている。




「ねぇ、私達、まだ2人に謝ってないでしょ?許してもらえるなんて思ってないよ…会ってくれるかも分からない。でも、2人に会わないまま、私達はこの世から去るの?




2人だって苦しんでる。目の前で大切な仲間が3人も…2人も、この世に絶望したはず。見たでしょ…2人の目。あの時の、2人の顔」




忘れられない。




悲しみや、苦しみ。




そんな言葉より、絶望が当てはまる、あの顔を。




そんな顔をさせたのは、やっぱり私達で。




少しでも、2人が救われるなら…




「私は、2人に殺されても構わない」




覚悟は出来ている。
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