ブラックバカラをあなたへ
とりあえず、理事長の了承を得たわけだけど。




まぁ、授業が出れないということは、空き教室にいてもらうってことになるんだよなぁ。




でも、空き教室にはあいつらが…




大丈夫…かな?




なんだかんだ言って、話しかけてくるのは結我と薙、滾。




別に害はない。




うるさいが。




なんて、考えている内に空き教室に着いてしまった。




中から声が聞こえないため、まだあいつらは来ていないようだ。




「あの、ここは?」




「空き教室ね。で、私達の安息の場」




今じゃ、安息できなくなってきてるんだけどね…




涙が出てくるよ。




「空き教室!!」




え、なんでそんなワクワクしてるの?




空き教室ってそんな凄い所なの?




学校のスポット的な?




「潤ちゃん…?あのね、空き教室って何もないんだよ?期待できるものなんてないんだよ…?」




「いいえ!そんなことないです!空き教室でみんなサボってるんですよね!?憧れます〜!」




「「「「「憧れる!?」」」」」




ビックリだよ!?




みんなと声がシンクロしたのも驚いたけどさ!!




それ以上に、潤ちゃんの脳内にビックリだよ!!




「みなさん、ここで何してるんですか?」




そう聞きながらも、潤ちゃんの目は大きく見開いて空き教室を隅々まで見てる。




なんか、変な子…?




なんて、思っちゃったりする。




でも、そこも天使みたいだから、なんか、いい。




うん。




一人でガッツポーズしてみる。




「私は、燈さんと談笑してます。ね、燈さん」




「うん!ゆーちゃんとだん、しょう?してるよ!」




燈、無理しなくていいよ。




談笑の意味分からないんだよね。




「私は、ゲームしかしてないなー。あとは、寝る。」




本当に春実はゲームか寝てるところしか見たことがない。




でも、ここは本当に心地いいから寝てしまうのも分かる。




「私は、ここで音楽を聞きながら、空見たり、みんなを見てたり…寝てる」




いつもの窓際の席に座る。




ここは丁度お昼時に光が差して眠気を誘う。




「仲葉さんは、何をしてるんですか?」




「本、読んでるだけよ。」




前より自分から話すことが増えたなとは思っていたけど、そこまでなかったみたいだ。




誰かにふられないと何も言わない。




しかも、素っ気ない。




でも、今更言っても直るものでもないから、私は諦めてるけど。




「あの、さっきから気になってたんですけど…」




そう言った潤ちゃんの指は黒板を指しいた。




「これ、誰が書いたんでしょうね?ずっと、残してあるんでしょうか?」




黒板にはいくつもの言葉が書かれていた。




『俺たちは世界一最強』




それはバツで消してあって。




その下に『私達が最強』って書いてある。




別の場所には…『仲間』の文字。




そして、真ん中には『大好き』って大きく書かれてある。




それ以外にも変な絵や、しりとりをやった跡。




それは紛れもなく…私達と彼らが書いたもので。




ずっとずっと、あの日から変わらないまま残っていた。




「…それはねーーーーー私達にも分からないんだ。私達が来た時にはもう書かれてあった。誰が書いたんだろうね。こんな、くだらないもの…」




ほんと、くだらない。




こんなこと書いたって、『永遠』って書いたってそれが叶うと確証はないのに。




『仲間』なんて、すぐに壊れちゃうものなのに。




『大好き』なんて…っ




「そんなことないです」




そう言った潤ちゃんは、いつもの可愛さはどこかなくなっていて、その代わりちょっと凛々しく感じる。




「だって、とっても楽しそうに書かれてあるんですもの。内容がくだらないものだってありますよ。でも、これを書いた人達はきっとこの時間、幸せだったと思います。大切な人達とこうやって青春を送れて嬉しかったと思います。きっとこれは、宝物になったんじゃないかな…なんて、会ったこともないのに言うものじゃないですよね…って、あれ?葉音さん?あの…」




なぜだか涙が出ていた。




目に埃でも入ったのだろうか。




でも、こんなにも胸が苦しいのはなぜだろう。




潤ちゃんの言った一言一言に締め付けられるのはなぜだろう。




彼らとこれを書いた日のことを思い出してしまうのは…




私が書いた、『大好き』の文字。




その下に『俺も』って小さく書かれていた。




それがとても嬉しかった。




面白かった。




だから、『うそ』ってわざと書いた。




そしたら、口を聞いてくれなくなった。




だから、『うそ』の横に『愛してる』って書いた。




そしたら彼は、赤くなった顔を隠しながら、『俺も、愛してる』って綴った。




嬉しくて、嬉しくて、幸せを感じて、私は彼に抱きついた。




彼も優しく私を包み込んでくれた。




そんな淡い記憶。




もう、体験することのない思い出。




「ごめんね、潤ちゃんが感動すること言うから。涙出ちゃった。気にしないで」




制服の袖で涙を拭う。




もう一度黒板を見ると、さっきまでくだらないものなんて思ってたものが、宝物のように大事に思えてきて。




きっとそれは、黒板に当たっている光でキラキラ輝いているからだろう。




そう思うことにした。
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