ブラックバカラをあなたへ
彼らは半年前のあの日、何があったかを知らない。




だから、この学校に転校してきた。




私たちと先代の皇がいたこの場所に、手がかりを求めて。




いくつもある空き教室の中から、この教室を選んだのも、偶然ではない。




ーーー大切な人達が使ってた場所




初めて彼らがここに来た時、碧斗が言っていた。




おそらく、先代から聞いていたのだろう。




だからこそ、私たちを疑わずにはいられない。




私たちが半年前から使っていたという嘘も信用していないだろう。




だから、私たちを嫌っていても碧斗はここに来る。




彼らにとって、私たちが唯一の手がかり。




それをみすみす逃すようなたまではないことは分かっている。




分かってはいるけど…




「でも、燈はやっぱり大丈夫だと思うな」




燈が笑顔でそう告げる。




「今まで、誰も燈たちの存在を知られることなんてなかったじゃん!あの時みたいな事はもう二度と起こさせないって、約束もした。あと一年、あと一年で燈たちは引退する。だから、心配することなんてないと思うな!」




こういう時の燈の言葉はいつも私たちを前に導いてくれる。




燈も不安で仕方ないだろうに、それを思わせない燈の無邪気な笑顔。




だから私たちも自然と笑顔になる。




うまく笑えない私たちに、元気をくれる。




「そうだよね。私たち、もう三年もBlackQueenやってるんだもん。燈の言う通り、大丈夫だよね」




私がそう言うと、みんなが頷いた。




「それなら、ちゃやゃっと勝負に勝って、あいつに今までのこと謝ってもらわないと!もう私のことバカ呼ばわりできなくさせてやるんだから!」




私はそう意気込んでガッツポーズをつくる。




私がやすやすと一位の座を明け渡すなんて思わないことね。




「あの、その事なんですけど…」




今まで静かに私たちの話を聞いいた潤ちゃんが、小さく手を挙げる。




「私が口出すことではないと分かってはいるんですが…みなさんの大切な勝負ですのに、葉音さんだけに任せるのは少し無責任のような気がして…」




潤ちゃんの発言に私は驚く。




私は別に気にしていない事だったし、なんなら気づいていないことだった。




潤ちゃんが私のために言ってくれたことに嬉しさも覚える。




「あの、その、みなさんを責める気はないんです…ごめんなさい」




こんなことを言ったら嫌われると思っているのか、潤ちゃんが少し縮こまったような気がした。




そんなことで嫌いになる私たちではないけれど、そんな潤ちゃんも可愛いなあなんて、不謹慎にも思ってしまう。




「潤ちゃん謝らないでよ〜」




「そうだよ!私たちは全然そんなことで怒ったりしないよ!」




「潤さんが気にすることはないわ。悪いのは全部私の目の前にいる馬鹿なんだから」




春実と燈、そしてまたもやめずらしく仲葉が潤ちゃんを慰める。




あの仲葉が、なんて驚いたけれど、あれは私を貶すために言ったのかもしれないとも思う。




それでもまあ、3人の言葉は潤ちゃんの笑顔を取り戻すには充分だったようだ。




「潤さんの意見は最もですわね。潤さん、言ってくれてありがとうございます」




そう言って、優奈が隣に座っている潤ちゃんの手を握って微笑みかける。




その微笑みに見蕩れてしまったのか、潤ちゃんが頬を染め固まってしまっている。




優奈の微笑みはそれはそれは美しく、絶対これで落ちない男はいないだろうな、なんて思う。




女の私でも落ちちゃいそうだもん。




「それでは、私たちと、皇夜のみなさんの合計点で勝負することにいたしましょう」
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