ブラックバカラをあなたへ
「ただいまあ」




「ただいまです」




日付が変わろうという時刻に、私たちは帰った。




夜ご飯はコンビニで済ましたので、あとはお風呂に入って寝るだけだ。




「ごめんね、遅くまで付き合わせちゃって」




台所で水を飲む潤ちゃんに声をかける。




「いえいえ、楽しかったので全然大丈夫です!」




マジ天使。




「先にお風呂入っちゃって」




私がそう言うと、潤ちゃんはお礼を言って脱衣所へと向かう。





彼女が来てから毎日が楽しかった。




今までが楽しくなかったわけではなく、家に一人でいることがなくなったのが大きい。




一人だと嫌でもあの日々を思い出しては、消えてしまいたくなった。




そんな自分がもっと嫌で、どうしたらいいのか分からなくなる。




私もお風呂に入る準備をしようと、自室に行く。




部屋の机には、彼との写真が入った写真立てが伏せて置かれている。




一度はしまった物だったけれど、勇気を出してまた飾った。




けれど、それを毎日目にするには、私の心はまだ弱すぎて。




私はそれを伏せた。




あなたとの思い出は、とてもとても幸せなものなのに、なぜかそれを受け止めるのが怖いんだ。




雅伊斗、ごめん、ごめんね…




伏せたままのそれを、私はそっと撫でる。




いつまでそうしていたのか分からないが、潤ちゃんが部屋のドアをノックする音で我に返る。




「葉音さん、あがりましたよ」




「あ、うん、次入ってくるね」




私はパジャマと下着を持って脱衣所へと向かう。




今日の私、感傷に浸りすぎじゃない?




シャワーを浴びながら考える。




きっと、あんな夢を見たせい。




また、心が揺らぐ。




いつになったら私は、強くなれるんだろう。




「はあ…このままじゃだめだ…潤ちゃんにも、みんなにも心配かけちゃう」




私がしっかりしなきゃ。




私が総長なんだから、こんな弱いところみんなには見せちゃいけない。




強くなって、みんなを支えて、みんなを導いていかなきゃ。




そうじゃないと、私がここにいていい理由がなくなっちゃう…




シャワーで打たれながら、私はそう、自分に言い聞かせた。
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