ブラックバカラをあなたへ
お風呂から上がると、台所に潤ちゃんが立っていた。




「あ、葉音さん、紅茶飲みませんか?」




その手には紅茶の入ったポットが握られていて、いい香りがしていた。




「もちろん、頂きます!」




天使が入れてくれた紅茶を、誰が断ろうか。




潤ちゃんは嬉しそうに、トレイにカップとポットを置いて、テーブルへと向かう。




私もそれに着いていって、椅子に座った。




「さっき、コンビニで買ったものなので、安物なんですけど、久しぶりに紅茶を飲みたくなって」




そう言いながら、私と潤ちゃんのカップに紅茶を注ぐ。




「それに…」




潤ちゃんはそこで一度口を噤むと、椅子に座った。




「…今日、葉音さん元気がないように見えたので…何か、したいなと思って…でも、私ができることなんて全然ないから、紅茶をいれるぐらいで」




そう言って、少し寂しそうに笑う彼女を見て、私は心臓を掴まれたかのような苦しさがあった。




私は彼女が入れてくれた紅茶を一口飲む。




それはとても温かくて、どこか肩の力が抜けるような脱力感があった。




「ごめんね、気を使わせちゃって。潤ちゃんの言う通り、今日はちょっと元気がなかったんだ。でも、もう大丈夫。潤ちゃんのおかげで、なんかちょっとスッキリした。




潤ちゃんは、なにも出来ないって言うけど、そんなことない。私、潤ちゃんがいてくれるだけで、毎日が楽しい。潤ちゃんの笑顔がすごく好き。




だから、ありがとう、潤ちゃん」




私はもう一口紅茶を飲む。




こんなこと、思っていい立場じゃないとは分かっているけれど。




少しだけ、少しだけでいいから、この幸せな時間を許してほしいと思う。




「紅茶、すごく美味しい!大好きだよ、潤ちゃん!」




そう言って笑うと、潤ちゃんの目から涙がこぼれ出す。



私は慌てて、彼女の元へ駆け寄る。




「え!?ちょ、潤ちゃん!?私、なんか変なこと言っちゃったかな!?」




もしかして、私に大好きとか言われたくなかった!?




私また、やっちゃったかな…?




「ち、違うんです…っ。私、そんな風に言ってもらえるの初めてで…大好きなんて、言ってくれる人、いなくて…っ」




顔を覆い隠しながら、紡がれる言葉にまたもや胸を苦しめられる。




「だから、だからっ…葉音さんに、そう言ってもらえたのが、すごく嬉しくてっ…!私のほうこそ、ありがとうございますっ…私も、葉音さんが大好きですっ!」




涙を流しながら、笑った彼女の顔は、天使なんていう言葉じゃ表せなくて、私は思わず彼女を抱きしめた。




「大好き、大好きだよ、潤ちゃん」




強く抱きしめながら、私は何度もそう言った。
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