ブラックバカラをあなたへ
携帯で時間を見ると、お昼時だった。




「お腹空いたし、どっかでご飯食べようか」




私はそう提案して、モールの中にある和食の料理屋に入る。




ちなみに、決め手としては、一番空いていたから。




みんなとどのお店に入るか話し合いなんかしてたら、夕方にでもなってしまいそう。




それでも、数十分待って、私たちは中に入れた。




みんな思い思いに料理を決める。




私はかつ丼にした。




別に明日の気合い入れのためなんて思っていない。




普通にかつ丼が好きなだけ。




なぜか心の中で独り言つ。




「いよいよ明日だね~楽しみだけど、少し緊張しちゃう~」




料理を待っている間、燈が眉を寄せて、両手を頬に添える。




いちいち仕草が可愛い。




「まあまあ、成り行きなんだからさ。気楽にいこう」




春美は、燈を励ましているのか、はたまた呑気なだけなのか、気の抜けた声で言う。




「それにしても、笹原さんはよく私たちを誘えたものね。あの二人は、何も言わなかったのかしら」




仲葉が髪をすっと耳に掛ける。




思わず、その仕草に見とれる。




こんなの、男が見たらイチコロだわ。




私が仲葉を見たまま動かないのを不快に思ったのだろう、仲葉に睨まれた。




まあ、仲葉のこの性格じゃ、大半の男は泣いて帰りそう。




一人だけ、そうじゃないやつはいたけど、あれは例外ね。




「あの2人って、碧斗と咲満のことでしょ?確かに、あいつらが私たちと遊ぶなんて考えられないよな」




春美が頭の後ろで腕を組む。




「燈も不思議に思ったから、聞いてみたんだけど…2人には、私たちが来ること言ってないんだって」




燈が困ったように言う。




あの2人に言ってないって…一波乱起きそうな予感しかないんですけど。




「そんなことだろうと思ったわ」




仲葉、冷静にそんなこと言わないで。




「それって、大丈夫なの?」




春美が訝しげに燈に聞くけれど、絶対大丈夫じゃないと、私は思った。




「ん~…なんとかなるって返ってきただけだった」




燈が力なく笑う。




「今更どうこう言っても仕方ないでしょう。私たちも、約束したからには行くしかないのですから」




優奈が珍しくため息をつく。




「ま、あいつらのことは、あいつらに頼むしかないかー」




春美が呑気にそう言うと、タイミングよく料理が運ばれてきたので、明日の話は置いて、私たちは食事を始めた。
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