ブラックバカラをあなたへ
「なんで碧斗が…」




私は純粋に驚いて、そう口走ってしまったが、同じ場所で遊んでいるのだから、碧斗がここにいても何ら不思議ではないことに気づく。




けれど、言った言葉は取り消せない。




碧斗は私の発言を、別の意味で解釈したのだろう。




「俺がここにいたらわりぃのか?」




不快な表情を隠しもせず、私を睨みつける。




やっちまった…




碧斗から目を逸らして、自分自身に落胆する。




「ごめん、変に意味はなかったの。ただ驚いただけで」




そう、私は、碧斗が私だと分かっていて声をかけたことに驚いただけだ。




私のこと嫌いなら、声をかけずに無視するはずだ。




ん~今回は気まぐれで話しかけてきたのかな?




「こんなところで座り込んでたら邪魔だろ。何してんだ?」




なるほど。




気まぐれではなく、さっさとどこかへ行けと言いたかったのか。




「あの、彼女のお友達ですか?彼女、多分、足首を怪我してて…」




女性が碧斗に助けを求める。




友達じゃないと言い返しそうになったけれど、余計に話がこじれそうだから黙っておくことにした。




「そういうことだから、私のことはお構いなく」




自分で思っていたより、冷たい言い方になってしまった。




まあ、今までの腹いせという事で。




でも、一人でここに居座るのも、碧斗の言う通り邪魔になる。




かと言って、自分でもどうすることも出来ない。




これはもう、詰みじゃない?




そう思っていると、私の目の前に背を向けて碧斗が膝をつく。




その行動の意味が分からず、私は一瞬思考が止まる。




「えっと、何してんの?」




「乗れ」




乗れって…




もしかして、おんぶするつもり?




あの碧斗が?




嘘でしょ…信じられないんだけど…




いつまでたっても動かない私にイラついたのか、




「早くしろ。置いていくぞ」




少し怒気を孕んだ声で、碧斗が言う。




一人じゃどうすることもできないこの状況では、碧斗に甘えるしか選択肢はない。




「…失礼します」




私は、小声でそう言って、碧斗の背中にくっつく。




直に碧斗の体温が伝わって来て恥ずかしい。




碧斗が立ち上がって、歩き出す。




途中、女性に謝罪とお礼を言ったら、「素敵な彼氏さんですね」と言われたので、




「友達でも、彼氏でもありません」




と、力強く反論した。




碧斗の肩に顔を置くと、プール特有の独特な匂いがしたけれど、少し爽やかないい香りもした。




なぜかこうしていると、心が落ち着いていく。




それは人の体温に触れているからなのか。




それとも、雅伊斗とこうして海辺を歩いたことを思い出したからなのか。




少し泣きそうになって、顔をうずめた。
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