ブラックバカラをあなたへ
おんぶしている間、碧斗は一言も話さなかった。




どうして、私を放っておかなかったのか、不思議だった。




休憩所の椅子に私を座らせると、彼はすぐにどこかへ行ってしまった。




お礼言い忘れたな…




碧斗の姿が見えなくなって、そのことに気づいた。




後で言おう。




そう思ってはみるけれど、素直になれない私が本当に言えるかどうか不安だった。




そう言えば、雅伊斗にも言われたっけ。




『―――って、素直じゃない葉音に似てるって思ったんだ』




あの時、私と似てるって言った花はなんだったっけ…




そんなことを考えながら、プールの方をボーと見ていると、碧斗がこっちに戻ってくるのが分かった。




そのことに、私はなぜか安堵した。




彼の手には包帯があって、さっきはそれを取りに行ってくれたのかと、嬉しくも思った。




彼が私の目の前まで来ると、また膝まづいた。




「どっちが痛いんだ」




私の足首を見て碧斗は聞いた。




「…右」




私がそう言うと、碧斗は持ってきた包帯を私の右足首に巻き始める。




彼の見た目からは想像できない、優しい手つきだった。




「…ありがと」




私は小さな声で碧斗にお礼を言う。




「次からは気をつけろ」




碧斗はそれだけ言うと、またすぐにどこかへ行ってしまった。




右足首を見ると、綺麗に包帯が巻かれていた。




もしかしたら、本当は優しい人なのかも…




包帯を触りながら、そう思った。
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