真白物語
第二話 くろくとくろまあ
まくろとましろが出会ってから、二年の歳月がかかった。ましろは五歳になり、向かいの木に住んでいる、もーしーという少女とも仲良くなった。
ましろが朝ごはんを食べていると、誰かが玄関のベルを鳴らした。もーしーである。ましろは慌ててパンを口に詰め込み、
「ひふぁひふー!(今行くー!)」
と叫んで外に出た。そして、まくろに
「ひっふぇひふぁーふ!(行ってきまーす!)」
と叫んで、もーしーと公園に向かった。公園に着くと、まずやりたくなるのが木登りだ。
「木登りしよう?」
「いいよっ!」
二人は木の方へかけていく。すると、木の下に大きな声で泣いている子ウサギを見つけた。黒くて、歳はましろと同じくらいだ。
「どーちたの?」
ましろが子ウサギに聞いた。すると子ウサギは泣き止み、
「ママが……」
と弱々しくつぶやいた。
「ママが…どうしたの?」
もーしーも聞く。子ウサギは涙をいっぱい目に貯めて、
「くるまに…引かれちゃて……」
そこでしゃべるのをやめた。とても口に出したくないことなのだろう。しかし、その小さな勇気を振り絞って、最後の一言を口にした。
「死んじゃった……」
とても消え入りそうな声だった。
ましろともーしーは顔を見合わせ、うなずく。そして、もーしーは、子ウサギの背中をさすって、優しい声で言った。
「私は、この後に習い事があるから、この子のお家にいってごらん。」
もちろん、あの子のところでましろを指差した。そして、ましろに「よろしくね」と囁いた。ましろは、
「まいっ!」
と頷いた。そして、子ウサギと共に自宅へ向かった。
**
ましろと子ウサギは、ましろの住む大木についた。ましろがドアを開ける。すると、まくろが玄関まで来て、
「おかえりー」
といった。しかし、子ウサギを見た瞬間びっくりして、
「ま、ましろ、どうしたの?」
と慌てて聞いた。ましろは、頑張っていちから説明した。
「えっとね、この子はね、かくかくしかじかで、一人なの。だから、みぃ(自分)の兄弟になる子なの」
「??まぁ、よくわからないけどおやつにしながらお話しましょうか…」
ましろの説明ではわかりにくかったらしい。そして、まくろは子ウサギを居間へ案内した。居間では、暖炉の日がめらめらと燃えている。じゅうたんもひかれており、揺り椅子と小さい木の机が置かれていた。
呆然としている子ウサギに、ましろが聞いた。
「おなみゃえ(お名前)は?」
「……くろく」
子ウサギはもじもじしながらいった。ちょうどその時、まくろがおやつを運んできた。マシュマロと紅茶だ。ましろはマシュマロを見つけると、
「まーーーしーーーまーーーろーーーだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫んで、マシュマロにダイブしてしまった。マシュマロは、ましろの大好物なのだ。それに比べてくろくは、上品に紅茶を飲んでいる。それを見て、まくろはため息をついた。
ーーー同い年でこんなに違うものなのかしら…
ましろが落ち着いたところで、まくろは話を始めた。
「まず、くろくくん。お母さんとお父さんは?」
「ママが…引かれちゃて…死んじゃった…。パパは…わかんない…」
「そうかぁ…じゃあ、お母さんとお父さんの名前は?」
「パパはわかんない…ママが…くろまあ」
「!?」
母親の名前を聞いて、まくろは驚いた。そう。くろまあは、まくろのパン屋のお得意さんの名前だったからだ。突然店に来なくなったのは、引かれて死んでしまったからなのだろうか。頭に謎が巡る。
「ねぇ、ママぁ」
呆然としていたまくろに、突然ましろが話しかける。
「ど、どうしたの。ましろ…」
「あのね、まし(ましろ)とくろ(くろく)ね、きょーだいになるの」
「え、ええっ!?」
まくろは驚いた。だが、くろまあの子だ。放っておけない。それに、ましろとも相性が良さそうだ。考えた結果、まくろはくろくを新しい家族として迎え入れることにした。
「よしっ、今日から皆家族だよ!仲良くしようね」
まくろは二人を抱いて、精一杯の笑顔でいった。だが、その笑顔の裏にはくろまあの死という絶望がひそんでいた。
**
空は黒くなり、もう夜が訪れた。ましろとくろくは、まくろのベットでワイワイ騒いでいた。しばらく遊ぶと疲れてきたので、もう寝ることにした。しかし、この布団はとても重く、ましろでは持ち上げられなかった。なので、まくろを呼ぶことにした。その時、
「なんでママを呼ぶの?これ、軽いよ」
とくろくはいい、小さなからだで重い布団を軽々と持ち上げた。ましろはその強さに圧倒されてしばらくぼーっとしていたが、くろくに起こされて、二人でなかよく眠った。
そのころ、まくろはキッチンにいた。冷蔵庫から無造作に酒を取りだし、グラスにゴポゴポと注ぐ。そして、一気にそれを飲み干した。もう、これで五本目である。酒で気持ちを紛らわそうとしているのである。普段は飲まずにいる酒を、こんなに飲むのは初めてだ。これくらい、くろまあの死はまくろを苦しめた。
「くろまぁざぁ…ん…なんで…なんでぇ…」
ーーーもう頭がいたくなってきた。そろそろ酒も終わりにしよう。
まくろはそう思い、椅子から立ち上がった。しかし、力が入らず、床にへたりと座り込んでしまった。目から大粒の涙がしたたる。まくろはきゅっと唇を結んだ。
ーーー私は、あんなに親切にしてくれたくろまあさんになにもしてあげられなかった…
悔しい。悲しい。むなしい。せつない。そんな感情が、まくろを襲う。
ーーー決めた。これからは、くろまあさんの子供であるくろくを、大切に育て上げよう。それが、私にできる唯一のこと。
「ピィピィ…キチチチチチ…」
小鳥がないている。いろいろ考えている間に、夜があけたようだ。子供達が寝ている寝室を見ると、二人はなかよくぐっすりと眠っていた。その寝顔は、安心しきっているように見えた。
まくろとましろが出会ってから、二年の歳月がかかった。ましろは五歳になり、向かいの木に住んでいる、もーしーという少女とも仲良くなった。
ましろが朝ごはんを食べていると、誰かが玄関のベルを鳴らした。もーしーである。ましろは慌ててパンを口に詰め込み、
「ひふぁひふー!(今行くー!)」
と叫んで外に出た。そして、まくろに
「ひっふぇひふぁーふ!(行ってきまーす!)」
と叫んで、もーしーと公園に向かった。公園に着くと、まずやりたくなるのが木登りだ。
「木登りしよう?」
「いいよっ!」
二人は木の方へかけていく。すると、木の下に大きな声で泣いている子ウサギを見つけた。黒くて、歳はましろと同じくらいだ。
「どーちたの?」
ましろが子ウサギに聞いた。すると子ウサギは泣き止み、
「ママが……」
と弱々しくつぶやいた。
「ママが…どうしたの?」
もーしーも聞く。子ウサギは涙をいっぱい目に貯めて、
「くるまに…引かれちゃて……」
そこでしゃべるのをやめた。とても口に出したくないことなのだろう。しかし、その小さな勇気を振り絞って、最後の一言を口にした。
「死んじゃった……」
とても消え入りそうな声だった。
ましろともーしーは顔を見合わせ、うなずく。そして、もーしーは、子ウサギの背中をさすって、優しい声で言った。
「私は、この後に習い事があるから、この子のお家にいってごらん。」
もちろん、あの子のところでましろを指差した。そして、ましろに「よろしくね」と囁いた。ましろは、
「まいっ!」
と頷いた。そして、子ウサギと共に自宅へ向かった。
**
ましろと子ウサギは、ましろの住む大木についた。ましろがドアを開ける。すると、まくろが玄関まで来て、
「おかえりー」
といった。しかし、子ウサギを見た瞬間びっくりして、
「ま、ましろ、どうしたの?」
と慌てて聞いた。ましろは、頑張っていちから説明した。
「えっとね、この子はね、かくかくしかじかで、一人なの。だから、みぃ(自分)の兄弟になる子なの」
「??まぁ、よくわからないけどおやつにしながらお話しましょうか…」
ましろの説明ではわかりにくかったらしい。そして、まくろは子ウサギを居間へ案内した。居間では、暖炉の日がめらめらと燃えている。じゅうたんもひかれており、揺り椅子と小さい木の机が置かれていた。
呆然としている子ウサギに、ましろが聞いた。
「おなみゃえ(お名前)は?」
「……くろく」
子ウサギはもじもじしながらいった。ちょうどその時、まくろがおやつを運んできた。マシュマロと紅茶だ。ましろはマシュマロを見つけると、
「まーーーしーーーまーーーろーーーだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫んで、マシュマロにダイブしてしまった。マシュマロは、ましろの大好物なのだ。それに比べてくろくは、上品に紅茶を飲んでいる。それを見て、まくろはため息をついた。
ーーー同い年でこんなに違うものなのかしら…
ましろが落ち着いたところで、まくろは話を始めた。
「まず、くろくくん。お母さんとお父さんは?」
「ママが…引かれちゃて…死んじゃった…。パパは…わかんない…」
「そうかぁ…じゃあ、お母さんとお父さんの名前は?」
「パパはわかんない…ママが…くろまあ」
「!?」
母親の名前を聞いて、まくろは驚いた。そう。くろまあは、まくろのパン屋のお得意さんの名前だったからだ。突然店に来なくなったのは、引かれて死んでしまったからなのだろうか。頭に謎が巡る。
「ねぇ、ママぁ」
呆然としていたまくろに、突然ましろが話しかける。
「ど、どうしたの。ましろ…」
「あのね、まし(ましろ)とくろ(くろく)ね、きょーだいになるの」
「え、ええっ!?」
まくろは驚いた。だが、くろまあの子だ。放っておけない。それに、ましろとも相性が良さそうだ。考えた結果、まくろはくろくを新しい家族として迎え入れることにした。
「よしっ、今日から皆家族だよ!仲良くしようね」
まくろは二人を抱いて、精一杯の笑顔でいった。だが、その笑顔の裏にはくろまあの死という絶望がひそんでいた。
**
空は黒くなり、もう夜が訪れた。ましろとくろくは、まくろのベットでワイワイ騒いでいた。しばらく遊ぶと疲れてきたので、もう寝ることにした。しかし、この布団はとても重く、ましろでは持ち上げられなかった。なので、まくろを呼ぶことにした。その時、
「なんでママを呼ぶの?これ、軽いよ」
とくろくはいい、小さなからだで重い布団を軽々と持ち上げた。ましろはその強さに圧倒されてしばらくぼーっとしていたが、くろくに起こされて、二人でなかよく眠った。
そのころ、まくろはキッチンにいた。冷蔵庫から無造作に酒を取りだし、グラスにゴポゴポと注ぐ。そして、一気にそれを飲み干した。もう、これで五本目である。酒で気持ちを紛らわそうとしているのである。普段は飲まずにいる酒を、こんなに飲むのは初めてだ。これくらい、くろまあの死はまくろを苦しめた。
「くろまぁざぁ…ん…なんで…なんでぇ…」
ーーーもう頭がいたくなってきた。そろそろ酒も終わりにしよう。
まくろはそう思い、椅子から立ち上がった。しかし、力が入らず、床にへたりと座り込んでしまった。目から大粒の涙がしたたる。まくろはきゅっと唇を結んだ。
ーーー私は、あんなに親切にしてくれたくろまあさんになにもしてあげられなかった…
悔しい。悲しい。むなしい。せつない。そんな感情が、まくろを襲う。
ーーー決めた。これからは、くろまあさんの子供であるくろくを、大切に育て上げよう。それが、私にできる唯一のこと。
「ピィピィ…キチチチチチ…」
小鳥がないている。いろいろ考えている間に、夜があけたようだ。子供達が寝ている寝室を見ると、二人はなかよくぐっすりと眠っていた。その寝顔は、安心しきっているように見えた。