スペル
アイン「リスベールさん…ごめん…俺はっ…。」


「起きろ。ガキ。」


アインはかけられた毛布を剥がされ、ベットから降ろされた。目の前に、あの男がいた。アインは状況が理解出来ず、ただキョトンとしていた。


「さっさと顔洗いに行くぞ。テメェには聞きたいことが山ほどあるからな。 」


白髪の男はそう言い、スタスタと歩いていく。アインは起き上がり、警戒しながらその後ろについて行った。折れた左腕は、いつの間にか治っていた。


「テメェなんであの剣が使えた?あれはスキル持ちにしか反応しない剣で使えないはずなんだが。」


歩きながら、男が訪ねてきた。


アイン「スキル?スキルってなんですか?俺持ってませんよ?それに、あの剣は勝手に光ったんです。」


アインは言ってすぐ、リスベールのことを思い出した。


アイン「あ!リスベールさんはどうなりましたか!?」


「リスか、リスは…。リスはもう…。」


白髪の男は悲しそうな顔をして、コチラに振り向いた。アインはその顔を見て察した。


アイン「ま、まさか…ほんとに…?」


白髪の男は黙って頷く。


アイン「そんな…。リスベールさんが死んだなんて…。」


アインの呟きと同時に、近くの部屋のドアが開いた。


リスベール「誰が死んだって?」


扉を開けたのはリスベールだった。


アイン「リスベールさん!?え?だって死んだんじゃ…。」


リスベール「誰がそんな事言ったの?私はこの通り、生きてるわよ?大体、ウォルフ如きに殺されるレベルじゃないしね。」


アイン「でもっ…!倒れてましたよね!?」


リスベール「ま、まぁ、ね。あれは油断というかなんというか…。」


リスベールが少し頬を赤くし、下を向いた。アインは心の底から安心し、深く息をはいた。白髪の男はそれを見て、アインに言った。


「すまねぇな。厳しい事言っちまって。リスはこの村の長の娘なんだ。こいつに死なれたら、この村は滅びちまう。」


リスベール「だ、け、ど嘘をつくのはいけないわよねぇ?デューイ?」


リスベールがニコニコしながら、拳を握った。白髪の男はどうやら、デューイというらしい。デューイはその拳を見て、怯えていた。


デューイ「ちょ!おま!助けてやったのにそれはないだろ!?大体、11(イレブン)の癖に、油断するからウォルフなんかにやられるんだろー!」


リスベール「んー?何か言ったかなぁー?それに、それとこれとは別問題よねー?」


リスベールがパンッパンっと拳を打ちながら、デューイに迫った。アインはその様子をただ静観していた。


デューイ「い、いまそれどこじゃないだろ!?こいつ、どうするか決めなきゃだし。」


リスベール「ま、そうね。アイン君?だったよね。怪我はない?大丈夫?コイツが嫌味を言ったみたいだけど、気にしないでね。」


アイン「大丈夫です。気にしては、無いですし。それより、助けられなくて、ごめんなさい!」


言ってアインは頭を下げる。リスベールはバツが悪そうに頬をポリポリとかきながら、


リスベール「大丈夫よ。それより怪我、治癒が効いたみたいでよかったわ。」


と言った。デューイはそれをウンウンと頷きながら聞いていた。アインが顔を上げると、デューイが急かした。


デューイ「ほら、さっさと顔洗いに行こうぜ。お前、見た所俺と同い年くらいだろ。敬語使わなくていいよ。」


アイン「う、うん。分かった。」


さっきまでとは打って変わった雰囲気にアインは困惑しながら、デューイの後について行った。リスベールがその後ろ姿に声をかける。


リスベール「顔を洗ったら、この部屋においでね!いろいろと質問させてちょうだい!」


アイン「はーい!」


アインは答え、少し離れたデューイを追いかけた。
< 10 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop