スペル
アイン「デューイ…?生きてた…!」


デューイ「ふ…勝手に殺すなよな…ごほっ…。」


デューイは口から血を吐き出し、ゆっくりと立ち上がった。黒甲冑の男は首元に刺さった短剣を不思議そうに触っていた。


デューイ「ちっ…たしかに刺さったと思ったんだがな…バケモンめ…。」


アイン「デューイ…。リスベールさんが…。それに、お前の腕も…。」


デューイはアインの方を向き、じっと見つめた。アインは今にも泣きそうな顔をしていた。無理もないだろう。魔王に召喚されたにせよ、人間に召喚されたにせよ、アインは無関係で、しかも、よほど平和なところで生まれたんだろう、戦闘経験もなさそうだった。デューイは覚悟を固めた。


デューイ「……アイン…お前に頼みが…ある。」


アイン「ふ、不吉なことを言うなよ。デューイぃ…。」


デューイはアインがもう限界なのだと悟った。


デューイ「いいか、今から言うことを…よく、聞け。お前は、逃げろ、リスベールを連れて。お前の持っているその剣…時雨なら、多分逃げ切れるはずだ。東へ向かえ…。そこなら、生きていけるだろう。」


アイン「デューイはどうするんだよ!」


デューイ「俺はもう…無理だ。助からねぇ。見ろ、この出血量を。それにお前も、もう気づいてるだろ…?あいつを足止めしないといけない、てな。」


アイン「うっ…。」


デューイは薄く微笑み、残った腕で、アインの肩を押した。


デューイ「行け!にげろっ!はやく…!やつは俺が、俺が引き止めてみせる。」


アインは剣を強く握り、頷いた。


デューイ「俺が合図したら、こう、唱えるんだ。時を圧縮したまえ…スキル・コンパクトタイムと。分かったな?」


アイン「わかった…。」


デューイ「任せたぞ。東にある街、トクスカだ。忘れるなよ。絶対逃げ切れ…な。」


デューイはアインが頷くと、満足そうな表情を浮かべ、黒甲冑の男の方を向いた。黒甲冑の男は首に刺さった短剣を抜き、投げ捨てた。そして、俺に…正確には、俺の持つ時雨に向けて、駆け出した。それを見たデューイが胸に手を当てた。


黒甲冑の男「寄越せえええ!!!」


デューイ「俺は必ずお前を止めてみせる。リスベールのために…!風よ…我が身にまとい、我が身を喰らえ。かの者を滅ぼす大いなる風を生み出せ!!スキル・身を喰らう神風!」


デューイが唱えると、たちまち体の周りに強風が吹き荒れ、デューイの体を引き裂いていった。駆け出した黒甲冑の男は、何かを察知して立ち止まり、後ろへ飛んだ。瞬間、男がたっていた地面が細切れになった。


デューイ「いけ!逃げろ!!アイン!!」


アイン「っ…!時を!圧縮したまえ!スキル・コンパクトタイム!」


アインの姿が消え、2秒後にリスベールの姿も消える。作戦の成功を感じたデューイはニッコリと微笑み、黒甲冑の男と向かい合った。


黒甲冑の男「貴様…身喰(しんしょく)の段階まで達していたのか。面白い。黒騎士をうちたおせると思うてか?甘い。黒の力よ…我が腕にまとえ。スキル・トランスアーム。」


黒騎士が唱えると、黒騎士の両腕が黒い塊に包まれた。


デューイ「止める…!!」


黒騎士「無理だ、死ね。スキル・ヘルクラッシュ」


黒騎士は吐き捨てると、両腕を合わせ、祈るように振り下ろした。すると、有り得ないほどの重力が、デューイに降りかかり、デューイは反撃の暇もなく、押しつぶされてしまった。潰れたデューイの死体を見つめ、黒騎士は無表情のまま呟いた。


黒騎士「逃げられたか。今回は見逃してやろう。しかし、復活には時雨が必要だ。必ず、殺してでも手に入れてみせる。」


黒騎士は、地面から吹き出した黒い湯気に包まれ、消えてしまった。


直後、村は崩壊し、ガレキの山となった。



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