スペル
アイン「や、やった!!」


ナランハ「バカ!まだだ!!コアは1つじゃない!くそ、もうもたねぇ…!」


ナランハが声を張り上げる。ナランハの縛ル影が解けて、自由になったストーンブロッキンが腕を振り上げる。コアの血で全身を濡らしたアインがナランハの方を振り向こうとした。


アイン「え?今なん」


ドゴッという音がし、鈍い痛みがアインの体を襲う。アインの体がくの字に折れ曲がり、吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。


ナランハ「アインっ!!」


アインはビクビクとけいれんし、動かなくなった。ナランハがアインの元へ駆け寄る。


ナランハ「アイン…アイン…!起きろっ!」


ゆさゆさと体を揺するが、返事はない。


ナランハ「ちくしょう!やっぱこいつを巻き込むべきじゃなかった!」


ドスン、ドスンとストーンブロッキンが止めをさそうと近づいてくる。ナランハはアインの体に触れる。


ナランハ「移動系のスキルは長い詠唱が必要…俺は助からねぇ…か。」


ナランハ「巻き込んだのは、俺だからな。最後まで面倒見ねぇと。」


ナランハが呟くと、ナランハの両手が輝き出す。


ナランハ「生まれいでて、落ちる。過去と現在(いま)を繋ぎ、飛ぶ世界を浮かべる。誓いを胸に抱き、両の手に乗せて、たどり着くための道を」


ナランハの詠唱の間も、ストーンブロッキンはどんどん近づいてくる。ナランハの両手からアインの体へ、輝きが移動する。


ナランハ「開く。術を忘れず、心を忘れず。魂と身体を思い描く場所へ」


ストーンブロッキンが目の前まで迫り、腕を振り上げた。ナランハは尚詠唱を続けようとする。しかし


ストーンブロッキン「グオアア!」


加速化により極限までスピードの上がった腕が振り下ろされる。ナランハは目をつむり、最後の一節を唱えようとした。


ナランハ「今その力を呼び覚ま…っ!?」


アインが突如起き上がり、ナランハにキスをして、詠唱を止めた。アインの左手がストーンブロッキンの方へ向けられて、右手がナランハをつかんだ。


アイン?「グ…ト。ナランハは…死なせない…。」


その瞬間、ふたりの体が光に包まれて消えた。ドンッ!とアインたちに当たったはずの腕が地面をえぐる。


ストーンブロッキン「……?」


ストーンブロッキンは思った手応えを得られず、キョロキョロとあたりを見回す。二人の姿はなかった。ぼとっとストーンブロッキンの右腕が地面に落ち、黒い液体が垂れる。


ストーンブロッキン「グオ!?」


「おいおい、今のはなんだ?」


何処からか声が響く。ストーンブロッキンは残った左腕をピンッと伸ばし、その場で回転する。凄まじい勢いで周りの空気を切り裂くが、手応えはない。


「ち…詮索はあとだな。しかし、お前もそこらのやつと同じか。上位種って聞いて期待してたんだけどなぁ。」


再び、今度は左腕が地面に落ち、黒い液体が飛び出す。ストーンブロッキンは訳が分からず、がむしゃらに体をあらゆる場所にぶつける。ドォン!ドォン!と音が響くが、何にも当たらない。


「またか?何なんだあの黒い液体は。こんなやつにスキル使うのすらもったいねぇよ。ま、無駄に破壊されても困るし、仕方ねぇ…か。」


トンッと全身を軽鎧に包んだ男がどこからか現れ、橋に降り立つ。右手には裁縫針を握っている。


「ったく。縫い物してる時に呼び出すなんて…。持ってきた武器がこれしかないじゃねーかよ。だから突発的に呼び出されるのは嫌なんだ。」


ピピピッと音がし、男のリストバンドに文字が浮かぶ。〘緊急クエスト〙それを見た男はため息をつくと、深く息を吸い込んだ。


「右手に宿るは風神の力。足に宿るは風神の魂。スキル・風の斬撃」


ズビュウッという音がし、恐ろしいまでのかまいたちがストーンブロッキンの体を切り裂き、崩壊させていく。崩れた岩の欠片の上部が赤く染まり、吹き出した黒い液体が下部と橋を黒く染める。


「ち…雑魚が。クエスト完了、だ。」


軽鎧を着た男は不安そうな顔を浮かべ、呟いた。


「しかし…あの液体は一体…っと、それよりも向こうは大丈夫かねぇ?…まぁ、転移の光が見えたし、どうせババアがやったんだろ。見に行ってみっかな。」


男は橋の上を街に向かって歩いていった。


ストーンブロッキンの残骸はシューーっと蒸発して消えてしまった。

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