スペル
「また、守れなくていいの?」


声が、聞こえてきた。


「また、見殺しにするの?デューイのように、リスベールのように。」


声は、止まらない。


「あなたは、それでいいの?彼女に――彼らと同じ結末を迎えさせていいの?」


アイン「だめだ…。」


声が、ポツンとこぼれ落ちた。


アイン「もう、だめなんだ…。」


「何が、だめなの?この世界にいること?元の世界に戻りたいのに、この世界では自分が否定されて、自分はいるべきでないって分かってること?」


アイン「…ち…違う。」


声が波紋のように小さく響く。


「なら、あなたが死ぬのがだめなの?」


アイン「……違う。」


声が少し、大きく響き出す。


「なら、あなたは何がダメだって言っているの?」


アイン「誰も…守れない自分自身が。情けない自分自身がだめなんだ。ナランハを助けられない自分自身が、ダメなんだ。」


「そう、でも貴方には力がないでしょう?誰かを守る力が。情けなくて、ダメな己を変えるための力が。だから、彼女は救えない。また、死なせるだけ。」


アイン「…助けたい。」


「誰を?」


アイン「…ナランハを、助けたい。彼女に…同じ結末を迎えさせたくない。」


「あなたには、力がないのに?」


アイン「それでも、立ち上がって、身代わりになることくらいは、できるから。」


「彼女が本当にそれを望んでいると思ってるの?」


アイン「望もうと、望まれなかろうと。俺は、やる。それで、ナランハが助かるなら。」


「……」


アイン「もう、行かないと。俺は彼女を助けるんだ。」


声が、聞こえなくなる。視界が、明るくなり始めた。助けてみせる。その覚悟を胸に抱き、アインは…目を開けた。先程までの問答が、スーッと頭の中から消える。


「正解よ…。あなたには素質があるわ。勇者としての素質が、ね。さぁ!救いに行きなさい!貴方は、そのために呼ばれたのだから!力がないのではない、きづいていないだけ!…わたしからあなたへ、自身の力への気づきをプレゼントしましょう!」


視界が、完全に明るくなると目の前に大きな扉が現れた。


「その扉を抜けた時…あなたは、気づくでしょう。あなた自身に宿る力を。あなただけのスキル…魔王に唯一対抗できるスキル。そう、魔王と同じ、スペルを。」


アイン「スペ…ル。」


つぶやきと共に、大きな扉が開いた。扉の先は白く、見通せない。


アイン「…助ける。」


呟いて、扉の中へ飛び込んだ。





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