スペル
アイン「だめだ!全然わかんない!」


アインの叫びはざわざわとした声にかき消される。途方に暮れていると、お盆にジョッキを載せた従業員らしき女の人が話しかけてきた。


「どうしたんですか?そんなところで立ち尽くして?」


アイン「あ、えと…。」


言葉に詰まる。すると、女の人はハッとし、


「あなた…もしかして、ギルドに登録に来たのかしら?」


と言った。素早く三回頷く。女の人はうんうんと首を振り、お盆を右手に持ちつつ左手で一つの席を指さした。その席には、1人のお婆ちゃんが椅子に腰掛け、酒を飲んでいた。


「登録したいなら、ほら、あそこにいるギルド長に話しておいで?私たち、新しい人はいつでも大歓迎よ!」


それだけ言うと、女の人は行ってしまった。しばらく立ち尽くし、席の方を見つめる。相変わらずお婆ちゃんがジョッキに注がれた酒をぐびぐびと飲んでいた。


アイン「あれがギルド長?ただのおばあさんにしか見えないな。」


つぶやき、お婆ちゃんの方へと向かう。


アイン「あ、あの…」


ギルド長?「なんじゃい。」


アイン「ギルド長さん…ですかね?」


ギルド長「……zzz」


目の前でお婆ちゃんは突然眠り始めた。


アイン「あのっ!ギルド長さんですかね!?」


ギルド長?「なんじゃい。うるさいのぅ、聞こえておるわい。」


アイン「良かった、それで?ギルド長さんですか?」


ギルド長?「私がギルド長か、じゃと?そんなわけあるまいて。わしはただのバーさんじゃよ。それに、わしにはアルベイという名があるわい。」


アイン「え…?あの、あの人から聞いたんですけど。」


指をウロウロとさまよわせ、先ほどの女の人を指さす。


アルベイ婆さん「まーったくあの小娘は…。正確にはわしはギルド長の母じゃて。ギルド長はお前さんが指さしたあの子じゃよ。」


アイン「はい!?」


バッと振り返り、先ほどの女の人を見るとにっこり笑って手を振っている。


アイン「あの人…ですか?」


指さしながら、尋ねる。


アルベイ婆さん「じゃからそうじゃと言うておるじゃろう。はよ話してこんかい。まぁ、お前さんらを転移させたのは超プリチーなわしじゃがな。」


アイン「え!?そ、その説はお世話になりました。」


頭を下げて、お礼をいう。


アルベイ婆さん「よいよい、若い命を散らすのはわしも嫌じゃからの。はようあの小娘に加入許可を取ってきんしゃい。」


アイン「はい!ありがとうございました!」


礼を言ってから席を立ち、先ほどの女の人を探してあたりをキョロキョロと見回した。そして、奥の方にいる女の人を見つけ、女の人の方へ向かった。

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