スペル
リス「なんだか、嫌な予感がするわ…。」


ギルドのカウンターでリスは悪寒を感じていた。


リス「なにもないといいんだけど…。」


ギィッと音を立てて、入口の扉が開く。
入ってきたのはノースではなく、レジルだった。


レジル「よ、リス。あのオコチャマはどこにいるか知ってるか?」


リス「あら、レジル。ノースならいまスライム退治のクエストを受けてるわよ。」


レジル「そっか、なら強制送還まで待っとこうかな。」


レジルはそう呟くと、カウンター近くの机の上に座った。


リス「ちょっと。机の上に座らないで椅子の上に座りなさい?」


レジル「いいじゃんか。誰もいないんだしさ。」


リス「そうね、誰もいないから構わないわよ。…って言うわけないでしょう!座らないと首を吹っ飛ばすわよ?」


リスは腰のナイフを抜き、カウンターに突き刺した。刺さったナイフはぶぅーんと羽虫のような音を立て、震える。レジルは慌てて立ち上がり、椅子に座り直した。


レジル「おわわ!ごめんって!頼むからルーンナイフは勘弁してくれよ!」


リス「次にやったらすぐ首を飛ばすわよ。」


リスはとても綺麗な笑顔を浮かべ、ルーンナイフを腰にしまった。と、同時にギルドのドアがやや乱暴に開かれ、1人の男がなだれ込んできた。


「ほ、報告!村の西のライム森林より、黒い翼を持った人型の魔物が襲来!村にいたギルドメンバー全員で対応中!」


レジルはそれを聞くと、目を見開き、ギルドから飛び出そうとした。


リス「待ちなさい!!敵は恐らく魔王よ!あなたじゃかなわない!」


レジルは立ち止まり、振り返らずに言った。
「ここで逃げたら、俺はノースを失うことになる。それは嫌だ。それに、村人を見捨てることなんてできない。死んでもいい、俺は行く」


そして、走っていってしまった。


リス「ダメなのに…。君!今すぐ村人全員を避難させなさい!私も行かなきゃ…。」


リスはものすごい剣幕で、なだれ込んできた男にいうと、敵の、ノースのいるところへ走り出した。


レジル「ぐ…。かなわない…。けど、せめて一矢!報いる!万象が集い、剣に力が溢れ、神速を超える。スキル・神速抜刀!」


レジルの剣が青く輝きその光がレジルを包んでいく。レジルが光をまとい、神速を超えて切りかかった。しかし、ノースには傷一つ付かない、それどころかその斬撃が別の場所に転移して爆発する。


レジル「なんだ…と…。」


ノースはにやりと笑いレジルに声をかける。


ノース「甘いな、人間。我を甘く見てもらっては困るぞ。刃向かったバツだ、この村は一瞬で破壊する事にしよう。貴様にルーン、そしてスペルの力を見せてやろう。」


ノースは言うと両手を開き、前に突き出した。


ノース「漆黒の闇に浮かぶ我が魔力よ。ルーンにより力を増し、すべてを滅ぼせ。エリアラル・トゥエル・ロスト。」


ノースの背後の空間から黒い何かが溢れだし、両手付近にとどまり、丸く、大きくなっていく。それが人の頭ほど大きくなると、地面に落ち、消えた。


レジル「はっ…スペルなんて所詮こんなものさ…。残念だったな…。」


ノース「無知とは哀れなものよ。死ね。追う闇よ、すべてを飲み込み、消え去れ!」


ノースの落としたそれはどんどん大きくなっていき村を、すべてを飲み飲んでいく。レジルもまた、武器、防具ともに先端から溶けて、闇に飲み込まれていく。突如、闇がはじけ、リスが現れる。


リス「ダメって言ったでしょう!?早く退くわよ!ルーンナイフよ、私たちを王都ルミナータヘ転移させよ!スキル・転送!」


ルーンナイフから溢れた光が二人を包み、弾けた。消えた直後、黒い闇が隙間を埋めた。


ノース「フハハハハ!魔王の復活だ!この世を崩壊させ、支配してやるぞ!」


ノースは廃墟となった村で大声で笑った。


光の中からリスとリスに抱えられたレジルがでてきた。


リス「魔王の種は目覚めてしまったのね…。もう、あの子は魔王、倒すしかないわ。」


リスはとても悲しそうにそう呟き、王都ルミナータの正門から、王城へと向かった。

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