その時あの子は『独り』だった。
【日ノ宮慧side】
俺は、いつも世界の外側にいた。
起こることは全部他人事で、どうでもいい。
そうやって、無関心でいた。
今までは――――
「…な、なんなの!?
バカなんじゃないの!?」
教室の中心で狼狽える林田。
立花をいじめていたグループのリーダーだ。
…林田。
俺もバカだと思うよ。
あいつらのこと。
「…ふざけないでよ…壊さないでよ…
あんたのせいよ…!!
あんたなんかが来なきゃ!!!」
「え!?」
林田が転校生――一条に拳を振り上げた。
バカだと思うよ、あいつらも――――
あいつらに感化された自分も。
「――――!?」
「…もうやめろよ、林田」
林田の腕を掴んでいった。
「なっなによ!!
あ、あんたさっきまで、今まで!!
見てただけだったじゃない!!
そんなあんたなんかに――」
「分かるよ、林田の気持ち」
「!?」
俺は無関心だった。
無関心になろうとした。
でも、やっぱ見てらんねぇ。
「…怖かったんだよな」
「っ!」
「お前も怖がってた
誰かにいじめられるのが…
だから、誰かの上に、意地でも立ってないといけなかったんだよな」
「そんな…こと…」
強がる言葉とは裏腹に、林田の頬には涙が流れていた。
俺は、自分の世界が、誰かに壊されるのが嫌だった…怖かった。
だから干渉せず、反論せず、穏便に済ませようとした。
自分の世界を…自分自身を守るために――――
今までの俺は、それでいいと思っていた。
自分がよければ、他人なんてどうでもいい。
他人の心配をしてる余裕なんてない。
しかたない。
どうしようもできない。
言い訳ばかりを考えて。
でも、原が言ったんだ。
『自分のことしか考えてなかった』
原はそれが、ダメだと言うように言った。
あぁ、ダメなのか。
自分だけじゃ、ダメなのか。
「…俺も、不安だったんだよ
怖かった……
たしかに今までの俺は、ただの傍観者
得意技は見て見ぬふり
なあ!
みんなだってそうだったろう?」
周りを見る。
まさか、こっちに話を振るとは思わなかったようで、大半の人が狼狽えた。
気まずそうに目をそらすやつ、目を泳がせるやつ。
「…でも、これからは違う」
林田の方を見る。
「…ただの傍観者はダメだって、どっかの誰かさんが教えてくれたからな」
これから言うのは、俺の決意。
学級委員だしな、一応。
「このクラスからいじめを無くす
クラスメイト全員が、安心できるクラスを作る
皆が笑えるようにする」
林田はもう、疲れきった表情をしていた。
全てが終わった。
そう顔に書いてあった。
……終わらせねぇよ。
「『全員』には、林田も入ってるからな」