その時あの子は『独り』だった。
【下池里美side】
「さっさと林田連れ戻してこよーぜ!」
私はハッとした。
空気に流されかけてた。
違うでしょ、今の私がしないといけないことは。
けじめをつけなきゃ…。
過去の自分のあやまちから、逃げちゃダメだ。
「――――立花!」
「!?」
私がいつものようにきつめに呼ぶと、立花の肩がビクッとはねた。
表情が暗くなって、顔色が悪くなる。
教室も、シンとなる。
私は他のグループのメンバーから一歩前へ踏み出した。
「―――ごめんなさい」
頭を、深く深く――――下げる。
「私は、絵理子を止められなかった
それどころか、絵理子と一緒になって、あんたにひどいことした
…ごめんなさい」
「…下池…さん」
私が言い切ると同時に、他の子達も頭を下げた。
…私と絵理子は親友だった。
だからこそ、知っていた。
彼女の心の闇を。
苦しんでいるのを、知っていた。
楽になりたがっているのを。
だから、立花をいじめていたのも。
いつも近くで見てたから。
私だけが知っていること。
「…許してもらおうなんて思ってない
あんたの気がすむなら、好きなだけ殴ってくれても構わない」
「ブフォ!!」
松本が吹き出した。
「純!」
日ノ宮が制すが、松本は言うことを聞かない。
「ヒーヒー!な、殴ってくれても構わないって!!」
「わ、笑うな!」
松本はしばらく笑って、私を見た。
意外に真剣な眼差しで、吃驚した。
「立花がそれを望むと思う?」
「!?」
「てか、殴って済ませるなんて、それはそれで虫が良すぎねぇ?」
「…………………じゃあ、どうすれば……」
私はどうすればいい。
罪を償うには、何をすればいい。
何をしたら、私は――――
「――――…私は許すよ」
「立…花」
か細い声で立花が言った。
信じられなかった。
酷いことをした。
たくさんした。
それなのに、立花は……。
「…もう、いいよ
私は謝ってくれただけで十分だから」
そう言って笑った。
でも、震えていた。
まだ、私が―――私たちが怖いのだろうか。
私はここで初めて、自分の犯した罪の重さを知った。
私のせいで、彼女は人を怖がる。
これからも…もしかしたらずっと…私のせいで…。
涙が出た。
罪の重さに耐えきれずに。
「!な、んで…」
私は乱暴にそれを拭う。
でも、涙は止まることを知らない。
私の意思とは裏腹に流れ続ける。
「っ……ごめ、ん…な、さい…」
私はきっと、この罪の重さを一生抱えて生きていくのだろう。
罪悪感を。
でも、きっと、もう二度と同じ罪は犯さない。