俺と結婚しろよ!
……と思うのだが……
「緊張するっつっても、お前らは演奏しないだろ」
冷静な声が聞こえ、あたしたちは振り返る。
無機質な白い扉。
その前に彼は立っていた。
きちんとしたスーツを着て、笑みを浮かべて。
かなりのイケメンだが、口元に寄る皺を見ると、結構な歳なのだろう。
……そう。
あたしたちのプロデューサー、森井さんだ。
「演奏は全て音源を用意している。
お前らのマイクのスイッチは入っていない。
勝負どころは、咲良の歌のみだ」
「……」
あたしたちは顔を見合わせ、口を噤む。
ここまで頑張ってきたのに、このオチ。
スーパースターを目指してきたのに、演奏すら許してもらえない。
いわゆる当て振りだ。