俺と結婚しろよ!
「ドラムって得なんだよな。
座ってれば顔見えねぇし、目立たねぇし。
それに、俺、よく帽子被ってるから」
だから、今は被らないほうがいいんだって。
滅茶苦茶な理論。
仮にあたしが街でFなんかに会ったら、パニックを起こして大騒ぎするだろう。
そんな人、ごまんといるだろうに。
そう思いながらも、胸がドキンとする。
Fなんだ……
賢ちゃん、Fなんだ、と。
「そういうことだけど」
賢ちゃんは不意にあたしの手を握る。
その手が予想より大きくて、すごく優しくあたしに触れるものだから、速かった鼓動がさらに速くなって。
身体の力が抜けてしまいそうで。
賢ちゃんずるい!
不意打ちばっかり。
なんでこうもあたしの心をかき乱すの?
「けど……
仕方ねぇから眼鏡くらいかけようかな」
そう言って、大きめの黒縁眼鏡をかける。
「咲良と噂になって、会えなくなったら困るからな」