ほら、そうやってすぐ死ぬ。



佐野くんはその数日後に死んだ。

戸倉さんの話では、息を引き取ってから、霊柩車で自宅に運ぶまでの間、霊安室に安置されていたらしい。

佐野くんはあの霊安室を懐かしんでいるだろうか。

私とのキスの味を覚えているだろうか。

「ねえ、佐野くん。美味しかった?」

戸倉さんのアパートのベランダから、スカイツリーと東京タワーが同時に見える夜景に聞いてみた。

返事はない。

ベランダの手すりに置いたワイングラスの発泡酒の泡が細かく、夜景に映ってキラキラと輝いている。

まるで初恋に終わりを告げるように、淡く弾けている泡。

私はグラスを夜景に掲げ、ひと口飲んだ。

未成年の飲酒は法律で禁じられている。そんなことは言われなくてもわかっている。


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