ほら、そうやってすぐ死ぬ。
お金より大事なものなんてあるわけないじゃん、馬鹿なのかな?
戸倉さんのアパートの郵便受けはない。
郵便を入れる入口は玄関のドアについていて、ピザのチラシや水のトラブルについての磁石型広告が投函されると、そのまま玄関の地面に散らばる。
戸倉さんはめんどくさがりで、足元のチラシが溜まってからじゃないと拾わない。それがたとえ、従兄弟の結婚式の招待状であってもお構い無しに、ヒールで踏んづけて行く。
私は気づけばそのチラシを取るようにしていて、結婚式の招待状を見つけたのも私が拾ったからだった。
「へえー、まさか雄太兄ちゃんが結婚するなんてねー。」
戸倉さんは靴跡の付いた招待状を裏表ひっくり返しながら見て、缶ビールでぎゅっと喉を鳴らして言う。
「行くんですか?」
私もチーズをつまみ、それを安いワインで流し込んだ。
「親戚だし、遠いわけでもないからねー。行かなきゃいけないかなー。」
「戸倉さん。行ったほうがいいですよ。見たところ、戸倉さんの干物ぶりは見上げたものです。メガネで地味で根暗な医者や、不健康な患者ばかりのいる病院じゃいい出会いはありません! 結婚式を出会いの場にするんですよ! 干物さえ隠せば、顔も服のセンスもそこそこいいんで、きっといい男を騙せるはずですよ!」
思わず口走った私を白い目で戸倉さんが見てきて、しまったと思った。
「……あんた、随分偉そうな口利くようになったわねー。えー?」
「あ、いや、その、えへ。」
戸倉さんの太股で首を締め上げられ、危うく私はチーズや赤ワインを吐き出すところだった。