ほら、そうやってすぐ死ぬ。



「おい! しっかりしろ! 紗栄子!」

そう。私は紗栄子だ。

塞いでた耳を徐々に開ける。風の音、周りのガヤが蘇る。

雨音が強まっていて、ピカッ光った稲妻が間髪入れず物凄い地響きを立てて鳴り響く。

近くの街路樹に落雷があって、店員や客がザワザワと騒ぎ出す。

「……紗栄子?」

そうよ。私は紗栄子よ。

世界でたった1人の、三田紗栄子だ。

「……金子。そのKを殺す仕事、私も同伴していいかしら?」

金子は黙った。しかし、私の顔があまりにもおぞましかったのか、頷いた。

その返事を聞き終えると、私は席を立ち、トイレに向かった。

洗面所の鏡に映る私の顔。

不敵な笑顔。ああ、楽しんでいるんだ、私。

頼りない、クソみたいな二人の敵討ち、いや、尻拭いを私がやってやるのだ。

これほどの優越感に浸れることがあるだろうか。

もう一度鏡で自分の顔を見た。

……やっぱり笑っている。


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